この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 私のした事は許される事ではなかった。
 許されないだろうな、とも思っている。
 だけれど、カレルヴォみたいな人生を歩んできた人達が、少しでも元の生活に戻ってほしい。

 学校に戻れるように。雨風の凌げる温かい家に住めるように。取り上げられたお金や貴重品が手元に戻るように。仕事の取引先と、世の中の人達から迎えられるように。
 罪滅ぼしのつもりはない。
 あるべき場所に戻るだけ。

「そろそろ夜も更けてきたのぅ。難しい話は明日にして、今日はワシもう寝る。……そうじゃ、ハイデマリーが魔力切れで動けなくなっておるのじゃが……、16歳のアーベルが見舞いに来たらあやつも喜ぶじゃろう」
「え?僕がですか?」
「そうじゃ」

 キョトンとした顔でアーベルは国王に言われるがまま、連れて行かれる。
 そういえば、ハイデマリー様ってアーベルの事気にかけていたよなあ……。幼い頃のローデリヒ様も抱っこした事あるって言ってたし、ハイデマリー様はローデリヒ様を嫌ってはなさそうなんだよね。

 今度、小さいアーベルを連れてハイデマリー様の所に遊びに行ってみようかな。

「アリサ」

 名前を呼ばれて、我に返る。そうだ。今この場はローデリヒ様と2人きり。
 穏やかな海色の瞳が、私を優しく見つめていた。

「おいで」

 なんて言うものだから、私は距離を詰める。少し広げられた腕の中に収まろうと、おずおずと身を傾けようとした瞬間。

 ローデリヒ様が強い力で、私を抱き締めた。
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