この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 高い体温と子供特有の匂いが伝わってくる。すごく機嫌よくキャッキャとはしゃぐアーベルくんは、ペタペタと私の頬を触る。

 その様子を見ていたシンプルなドレスを着たお姉さんは、しゃがんで私に挨拶をしてきた。


「おはようございます、奥方様。私はイーナと申します。記憶の件については、ゼルマ様から伺っております。ご無理をなさらず、お大事になさってください」

「ありがとうございます。イーナさん」


 お団子にした栗色の髪。紫色の瞳が優しい色をして私とアーベルくんを映した。


「アーベル様も奥方様に会えて大層喜んでいらっしゃいます。……ですよね?アーベル様」

「あうー」


 アーベルくんなんか言っているようだけど、全然分からない。分からないけど、とにかく可愛い。
 すぐに興味が違う事に移ったのか、今度はローちゃんを見つけて指さした。


「にゃんにゃん!」

「そうだね〜。にゃんにゃんだね……ってちょ、えっ、私もついて行く感じ?!」


 服を引っ張られて、アーベルくんについて行く。
 この日はアーベルくんが疲れきって寝ちゃうまで、散々振り回された。胸はキュンキュンしっぱなしだった。
 ちなみにマイペースそうなローちゃんもめちゃくちゃにされていた。

 赤ちゃん意外と体力あるのね……。
< 72 / 654 >

この作品をシェア

pagetop