この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 なんだ、意外と怖くないじゃん。

 ホッとした私の耳に、激しい水音が聞こえた。
 聞いたことがある。これは雨の音。

 湿っぽい匂いがする。空は夜に入る一歩手前。
 足元は大雨でぬかるんでいた。

 遠くの方から雨に紛れて、声が聞こえる。
 知らない男の人達の話し声。いや、話し声なんかじゃない。もっともっと激しい、怒声。

 私の周りにいた女の人がガタガタ震えている。必死に声を漏らさないように、口元を手で覆っている人もいた。ほとんど泣いている子もいる。

 雨音が唯一の救いだった。私達の音を消してくれるから。

 見つかっては駄目。
 見つかったら終わってしまう。私の貴族令嬢としての全てが。

 すぐ後ろで男の人の声が聞こえる。
 一人、また一人、と女の人の悲鳴が上がる。

 私の近くを走ってくれていた彼女達がどんどん犠牲になっていく。
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