この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 ローデリヒさんはバルコニーで立ち尽くしている私の隣に立つ。彼が指を1つ鳴らすと、一気に庭に蛍のような光が満ち溢れた。場が一気に明るくなる。
 多分暗い所が苦手な私に配慮したんだろう。


「わぁ……っ!」

「今の貴女は楽しそうにしている事が多い。表情も豊かになった」


 光が蝶の姿を形作る。手を出すとひらひらと私の指先に乗ってくれた。


「そんなに前の私、元気なかったんですか?」

「そうだな……」


 ローデリヒさんが目を伏せる。長いまつ毛が白い肌に影を落とした。


「私は貴女に簡単に人生を諦めて欲しくなかった。だから求婚したんだ。貴女がこの結婚に乗り気でないのは知っていた。……自分がやったことは本当に正しかったのかは分からない」


 穏やかな海色の瞳が眼下の庭を映す。花々の周りに光が飛び散る光景は美しかった。


「キルシュライト王族は光属性の一族。幼い頃より国民を導く光であれと教わる。私も誰かの道を照らす、道標になりたかっただけなんだ」
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