喪失姫と眠り王子

「ただいまー」






「おかえり」




「おかえりなさい」







「ご飯ある?」






「あるよ。ほら食べて」







食卓には色とりどりの食べ物が沢山並んでいる。





食事の時は、仕事の話はせず、今日あったことを話す大事な時間だ。







食べ終わり、







「キキ、お願いがあるんだけど」







「?なに?」







「新しい着物を着て宣伝してくれない?最近売上が悪いのよ」







「あーそうなんだ。分かった、考えとく」







「お願いね」











部屋に戻ると、一通の手紙が机の上に置かれていた。






送り主はすぐわかる。







毎週のごとく送ってくるのだから。





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鬼輝さま。



お元気ですか?


はやく顔を見せに来てくださいよ。




ひよじぃ寂しいです。




それと、最近孫が生まれたんです。


もし良ければ見に来てください。




ひよじぃ


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「孫?もうそんな歳か」







鬼輝は手紙を机にしまい、ひよじぃに手紙を書いた。






そうしているうちに眠たくなり寝落ちをしてしまった。
















窓からは眩しいほど明るい太陽の光が差し込んでいる。






「んー、朝か」







気持ちの良い朝を迎えた鬼輝は身支度を始め、玄関に待っているみんなの元へ向かった。







朝は忙しくて見れない携帯を今日は開いてみると何通も電話がかかってきていることが分かった。








「そんなに、誰から?」






「サラ」








「えっ!サラって颯那と結婚した?」








「うん。」








「知り合いなの?」








「大の親友だけど」







「うげー、スゲーな」







「そう?ってか電話していい?」






「どうぞ」






電話をかけてみると、1ゴールで出た。







『なんで昨日出なかったの?』






「ふつーに寝てた」






『へー』






「嘘じゃないから。要件は?」







『アイドルデビューしない?』







「アイドル?なんで」







『何となく。育児休暇も終わったし、ゆーくんとも踊りたいし』







「別にいいよ。あっ!良かったら衣装着物にしてくれない?お母さんが売れ行き悪いからどうにかして欲しいって」








『別にいいけど。着物1着ちょうだい』






「いいよ」






『じゃ、』






「ばいばーい」









驚いた顔でみんながこっちを見ている。










「もしかして、仕事入った?」







「うん」







「なんの?」








「アイドルデビュー」







「マジか……」







「ただでさえ忙しいのにどーするの?」







「私の目的は売れることじゃない。それは知ってるよね」







久しぶりに聞いた鬼輝の低い声に背中に冷や汗が流れた。








重い空気のまま、スタジオに到着した。







中には大勢のスタッフが居り、普通の仕事じゃないとやっと理解した。






それもそうだろう。







一流ブランドのスーツだ。








「おはようございます。よろしくお願いします」






「はい。お願いします」







「……どこに行けば?」







「あっちです。忙しいので話しかけないでください」









準備室に案内され、メイクを始める。








しかし、鬼輝以外の人は何故かイライラしている。







な、なんでこんな不機嫌?









「許せねー」






「なんだよさっきの態度!デザイナーのくせに!」






「出演者には頭低くしろよ!」








「ちょ、なんであんた達が怒ってんの?」








「だって喋りかけるなって普通言う?」






「まー、いわない」







「だろ!ふざけなさんな!」








愚痴を聴きながらメイクを終わらせ、スーツに着替える。






あれ?なんか小さいような。






って、サイズ間違えてるし……。






思わず口に出しそうになったが、今言ってしまえば怒りが治まらなくなる。






そう思い鬼輝は、黙って小さいスーツをきた。








「でもキツイからボタン開けてもいいよね……」







「どうした?」








「ん、いや。ボタン開けてもおかしくない?」






「全然」






「良かった」











撮影が始まり真剣な表情でポーズを決める中、また1人イライラしている人がいた。






その人は朝から失礼な態度をとったあとデザイナーだった。







気に触らないように休憩の時も静かにしていたが……。









「キキさん。すいませんがボタン閉めてくれませんか?」







「え?ボタンですか?開けてる方が良いんですけど」







「いや、おかしいです」








「は?」








「あなたはデザイナーじゃないでしょ?私の指示に従ってください」







スタジオにいた人はみんなこちらを見ていた。






そして、言われた鬼輝よりも隣にいる心音と心花の方が怒りだしそうな勢いだ。










よし、冷静になれ。








「私は苦しいのが苦手なので開けていてもいいですか」






「ダメ」








「あなたね。さっきからキキに対して態度悪くありませんか」






「そうですか?そう見えるだけでは」






「うわ、」











他のスタッフが止めに入るがこの喧嘩は止まりそうにない。






どうしようか悩んでいると








「マネージャーごときに何がわかるんですか?」








あーあ、言っちゃった。











「お前、調子こくなよ」






「え」








怒り始めたのはもちろん、鬼輝だ。









「デザイナーだからってイキってんじゃねーよ。お前みたいな古い考えする人久しぶりに見たわ!
ばっかじゃねーの。それにデザイナーのくせにサイズ間違ってんじゃねーよ。それを言わない方がいいかなって苦しくても着て、ボタン開けてんのに。お前みたいにぺちゃぱいじゃねーんだよ」








「なっ、ぺちゃぱい!?」







「ってかさ、そんな考え方してるから3流なんだよ。よくそれで一流ブランドのデザイナーになったな」








「それは……」









「その人は臨時で入った人です」










近くにいたアシスタントが恥ずかしそうに声を上げた。










「あーね、だからか。ちょっと待って違うデザイナー呼ぶから」








電話をかけた相手は、近くに住んでいる有名なデザイナーだった。






事情を話すとすぐ来てくれるそうだ。








電話を切って10分後、スタジオに到着した。









「お待たせ」







「!!サヨリさん!」









「えっ!あの有名なデザイナー」








「そう。サヨリちゃん衣装が小さいんだけどどーしたらいい?」







「あー、これ誰?担当者。」








「はい……」







「出直したら」







泣きながらデザイナーはスタジオを出ていった。





サヨリが手を加えて5分後。







さっきとはまた違ったスーツとなった。








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