毒壺女子と清澄男子
まるでこの世のどこにも居場所が無いような気分で、朝っぱらからカフェのタンブラーを片手にヒールの踵の音も高く歩く意識高い系のフリをする節約意識皆無な女子達の間をすり抜けて会社へたどり着く

「おはようございます」

タイムカードを押し、朝から二杯目のコーヒーを飲もうと机の上に置いてある頂き物ドリップパックとマグカップを持って、給湯室へ向かおうとしたら不意に電話が鳴った

エリカちゃんもおばさんもまだ出社しておらず、他の社員も何やらゴソゴソしていて応答しようという気配が無いので受話器を取り上げれば懐かしい声が聞こえる

『おはようございます、関西支社第一営業部の神田です! 』
「おはようございます! 神田営業部長。本郷です」
『おっ、本郷さん。いやーツイてるなー、君に頼みたい事があって』
「神田さんの為なら何なりと」

敬愛する神田営業部長からの依頼は、以前に担当していた青梅の山奥に住む個人事業主への新機種導入提案だった

通常、こうした個人事業主への営業は私が所属する法人営業部ではなく第二営業部の仕事なのだが昔からの付き合いに加え、個人的な交際もあったようで何かあればすぐ神田さんへ連絡が行くような関係で、信頼出来る人間でなければ頼めないらしく私に白羽の矢を当てたと言う

『凄く不便な場所で悪いけど、明日、頼むよ』
「山奥だろうが海の底だろうが恩師の為なら行きますよ! あ、手土産は何を用意すればいいですか? 」
『銀座の竹虎屋の栗羊羮だよ、奥様の大好物なんだ』
「分かりました! すぐに用意します」

日持ちのする物だが竹虎屋は老舗中の老舗、もしかしたら売り切れるかも知れないので即、出掛ける事にして営業部の壁面にある行き先ボードへ銀座に続いて回れる得意先を脳内で検索し、新橋、日比谷と記すと会社を飛び出す

が、あたしの行き先は銀座で止まってしまった
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