毒壺女子と清澄男子
「これ、清澄 聖都のイラストですよね」
「キヨスミ セイト? 誰よそれ」
「今、ピクセブで話題の絵師ですよ! 最初は初動戦記ネクステージのアッシュとピンクのイラストが超絶技巧だって話題入りして、それで三年前のコミケでキヨピズムが壁サーになって、中古市場でも高値で取引されるくらい有名な絵師ですっ! 」

言っている事の半分どころか一割五分五厘しか理解出来ない言葉が羅列されていたが、とにかくあのキヨちゃんは同人誌業界では有名人なのだろう

多分

で、興奮した赤羽がファイルに入っていたUSBメモリーを発見した後、あたしはこのクソオタク野郎の隣席で殺人事件の犯人のようなレベルの事情聴取を受ける羽目になった

が、やっていないものはやっていない、ではなくオタクでも何でもないデキるだけの営業ウーマンなので知っている事だけしか話せない

「だからぁ、青の発色が問題だって言われてるだけ」
「そこをもっと詳しく! 黒みを強めればいいのか逆に黄色を強めればいいのか、そんな事も聞き出せなかったんですか! 」
「…だったらあんたが直接聞けばいいでしょ、あたしは技術なんか詳しくないし、色のプロでもないの! あんた達が作ったモンを売って売りまくるのが仕事なの! 」

こうして赤羽と例のキヨちゃんを面会させる機会を設ける羽目になり、長時間に渡る双方キレ合いに疲れ果てて技術を後にすればもう退社時間

昨日の今日で疲れはマックスに達しており、もう早々に帰って自分の部屋で休みたいと思ったのだけれど、隣室に引っ越して来た例のプロゲーマーの姿が不意に頭の中に浮かぶ

帰りたくない、が、帰らなければ休めない

途方に暮れながらも会社を今朝着替えたスーツと共に退社しようとしたけれど、やっぱり今日も事件は起こった
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