芦名くんの隠しごと
「…わかった。夏樹も気をつけて」
「当たり前だろ」
そのとき、ヘルメット越しに夏樹くんが笑った。その顔は、ヘルメット越しでもバッチリ見えて。
笑うと少し幼くなるのが、かわいいなと思った。
「じゃあ野乃、ちゃんと掴まってて」
「うん…!」
芦名くんに言われた通りに、彼の腰に腕をまわす。
思った以上に密着して、うっかり離してしまいそうになるけど、そんなことしてはいけない。命に関わることなのだから。
けれど、この状態になると、芦名くんの匂いがしっかりする。
それに、いろいろなことがわかってしまう。
細身の身体には、意外と筋肉があって固かった。
あれだけの運動神経なのだから当然といえば当然なのだけど、やっぱりドキドキしてしまう。
そんな私の心臓の様子を知るはずもなく、芦名くんは私がしっかり掴まったのを確認すると、バイクのエンジンをつけた。