芦名くんの隠しごと



「…わかった。夏樹も気をつけて」


「当たり前だろ」


そのとき、ヘルメット越しに夏樹くんが笑った。その顔は、ヘルメット越しでもバッチリ見えて。


笑うと少し幼くなるのが、かわいいなと思った。


「じゃあ野乃、ちゃんと掴まってて」


「うん…!」


芦名くんに言われた通りに、彼の腰に腕をまわす。


思った以上に密着して、うっかり離してしまいそうになるけど、そんなことしてはいけない。命に関わることなのだから。


けれど、この状態になると、芦名くんの匂いがしっかりする。


それに、いろいろなことがわかってしまう。


細身の身体には、意外と筋肉があって固かった。


あれだけの運動神経なのだから当然といえば当然なのだけど、やっぱりドキドキしてしまう。


そんな私の心臓の様子を知るはずもなく、芦名くんは私がしっかり掴まったのを確認すると、バイクのエンジンをつけた。


< 33 / 279 >

この作品をシェア

pagetop