芦名くんの隠しごと
「…すごい」
「本物のドアはこっち。窓のところ」
芦名くんが慣れた手つきでそこを開けると、カランといい音とギィ…という耳障りな音がして、重そうなドアが開いた。
内装もカフェのよう。茶色が基調とされた空間になっていて、とても落ち着いている。
「孝也さん」
芦名くんにそう呼ばれて顔を上げたのは、カウンターらしきところにいる男の人。
……年齢不詳。
危ない人って、この人だろうか。
「康生か。可愛い子連れてるな」
タカナリさんがそんなことを言うから、お世辞だとわかっていても、恥ずかしい。
「この子、水上野乃。覚えておいて。名前と顔」
「わかった。俺、孝也。好きに呼んで」
「孝也さん…よろしくお願いします」
物腰柔らかそうなのに、一人称が“俺”だということ。
コーヒーカップを触っている左手の薬指に、指輪がついていたこと。
…笑ってるようで、ぜんぜん目が笑ってないところ。
たぶん、穏やかだけど警戒心が強いのだと思う。あと、やっぱり年齢不詳。