愛染堂市
 
銃口を常に目線の先に合わせ、階段を音を立てないように駆け上がる。

愛用の幅広なドイツ製の革靴が、階段の滑り止めを踏み締める時に僅かにキュッと音を立てる。

――いつ頃からだ?

闇に身を潜める事を意識しなくなった。

自然と言ったら自惚れて聞こえるが、気配を消して闇と同化していく感覚に快感を覚える。

もしも出会い頭に敵と向き合っても、奴が俺に気が付く前に闇と共に仕留める自信がある。

こんな感覚が俺を抑揚させ、小池に「変態」と言わせてしまうのだろうか?

―――ふんっ馬鹿馬鹿しい。

小池の一言で馬鹿げた事を考えてしまう。

馬鹿な事を考えながら、ひっそりとした雑居ビルの四階のフロアに着く。

フロアを見回し状況を確認する。

廊下の先に見える非常口の扉の裏では、小池が身を屈めてせっせと安っぽいツールを使って解錠してる事だろう。

目的の部屋の手前の角に潜んで、小池の到着を待つ。


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