愛染堂市
 
『・・っくそっ!!』


脳裏に小池の顔が浮かび、俺は開け広げられた非常口へ向かう。

倒れている小池の姿は見えない。

そのまま非常階段に飛び出し、周りを見渡す。


『小池!!』


小池は四階と三階の間の踊場で、肩を抱えながらうずくまっていた。


「・・つっ・・中島さん」


急いで小池の元に駆け寄ると、奴は苦悶の表情を浮かべながら声を絞り出す。


『おい生きてたかコノヤロー』


「中島さん・・弾は抜けたみたいなんで・・俺は平気です。奴らを」


小池のジャケットの左肩に空いた穴は、綺麗に後ろまで抜けていた。

どうやら小池の言う通り、取り敢えずの止血さえしていれば大丈夫だろう。


『――馬鹿。最初から、そのつもりだよ。そのまま、しっかりと押さえとけ』


俺は小池に憎まれ口を叩きつけ、滑り止めの付いた鉄板の非常階段を駆け下りる。

カンカンカンと耳障りな足音が、弾の掠った脹ら脛に僅かな痛みを与えるが、それ以上にこめかみをジンジンと刺激する熱に俺は支配されている。

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