愛染堂市
 
『・・・この人』


「どうした?」


『まだ生きてる』


「・・・そうか」


『手当てしてあげないと・・・』


アタシがトラックを完全に停車させサイドを引くと、バカオトコは小窓から窮屈に助手席の彼を覗き込み、一言「無理だ」と呟いた。

アタシはそんなバカオトコの声は聞こえたが、聞こえていないようにグローブボックスを開け、使えそうな物を探す。

バカオトコはアタシのその様子を見ながら、呆れたように大きい溜め息を吐き、荷室の小窓を閉めた。


『・・・酷い奴』


アタシの期待も余所に、グローブボックスには地図や銃の弾倉こそ入っていたが、肝心の手当てに使えそうな物は見当たらなかった。


『・・・タオルも無い』


独り言を漏らしながら、グローブボックスの中の物を全部、ベンチシートの中央に散らかし、仕方無く荷台の小窓を開く。


『ねぇ・・・救急箱とか無いの?』


「んなもん無いだろ」


バカオトコは呑気に煙草を吹かしながら、面倒臭そうに答える。


『なんでよ?!』


「このトラックは借りモンだからな」


『じゃなくて・・・なんで用意してないのよ?!』


「・・・知らねえよ!!安全だって聞いてたからだろ?!」


『馬鹿じゃないの?!紛争地帯よ!!』


バカオトコの他人事な態度にアタシは益々腹が立ち、自然と声を大きくする。


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