愛染堂市
 
「――あのぉ、いい加減にしてもらえますか?」


 救急車の中で頑なに応急処置で済ませようとする小池に、救急隊員が懇願するように吐露する。


『おお、その馬鹿にいっそ麻酔でも打って連れて行っちまえ』


俺が気の毒な救急隊員に加勢すると、小池はふてくされたように「大丈夫ですよ」と言う。


『大丈夫じゃねえだろう?腕がまともに挙がらねえようなら、新妻をマトモに可愛がれねえぞ馬鹿が』


俺の嫌味に、小池は少しばかり顔を高揚させながら、それでも「大丈夫です」と食い下がる。


「なあ中島、俺はもう一回事務所の方へ行ってみる」


 俺達を呆れたように眺めていた毒島が、業を煮やしたように吐き捨て、ズボンのポケットに手を差し入れながら背を向ける。


『ああ、わかった。俺もこの馬鹿を送り出したら行くよ』


俺が救急車の小池を、顎でしゃくり上げながら、毒島の背中に言うと、毒島は片手を挙げ、了解したのかしないのか微妙な応答をし、その場を立ち去った。


「中島さん、俺も事務所に行きます」


――小池の馬鹿が聞き分けのねえ事をまた言いやがる。


『バカ野郎!!いい加減にしろ!!・・・テメエは先ず病院へ行け!!バカがっ!!バカがっ!!』


「そ・・そんなバカを二回も言う事無いでしょうがっ!!」


俺達のやり取りに、救急隊員は落胆し大きな溜め息を吐き、俺は気恥ずかしさに苦笑いをしながら、釣られて溜め息を漏らす。

――毒島が言うように、前はもっと素直だったんだが・・・
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