愛染堂市
 馬鹿な事かも知れないけどアタシは今この男の無言に耐えられなくなった。

 だから折れた。



 何も無い風景の先にポツンと工場の様な建物が見えた。

男は建物の前で車を停めた。

 工場らしき建物はシャッターが閉まっていたけど、男はそのシャッターの前にトランクの中のビニール包みを置いた。

 アタシは車を下りずに男の行動を眺めていた。


「よしっ!!・・・もう一ヶ所行かなきゃいけねぇんだけど・・・腹まだ大丈夫か?」


『・・うん』


「そうか良かった」


 男はそう言って車を今来た方向に向けて走らせた。


『・・あそこって?』


「あぁ今の場所か?」


『うん』


「あそこは精肉工場だ」


『肉屋?!』


「あぁ・・安心しろよ!!あれがウィンナーやハムになる訳じゃねぇから!!」


 男はビックリするアタシに笑いながら言った。


「あそこは家畜用の飼料も作ってんだよ」


『し・飼料?』


「あぁ・・豚や牛の捨てる様な肉を、ミキサーやら何やらで粉にすんだよ。――それに、俺の持ってきた肉も混ぜて処理して貰うんだよ。・・あそこの社長は結構がめつくて、結構俺から取るんだぜ!!」


『・・・家畜が人の肉食ってるって事?』


「食物連鎖・・・かな」


 男は笑いながら言った。

男の邪気の無い笑顔は、可愛らしくも不気味だった。
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