私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~

 * * *

 屋敷に帰って、部屋でくつろいでいると、使用人さんの声が廊下から聞こえた。
「お帰りなさいませ」
 毛利さんが帰ってきたんだ。
 監禁解除になってから知ったんだけど、毛利さんもこの家に住んでいた。と言っても、仕事が忙しいらしく、朝は早いし、夜は遅い。
 帰ってこない日も多い。

「お帰りなさい」
 私は障子を開けて、ぴょこんと顔を出した。
 毛利さんは私に気づいて、能面な顔のまま、
「まだ起きていたのか」
「まだって、まだ日が沈んだばっかりなんですけど」
「小娘は寝る時間だろ」
「小娘じゃないですから」

 ムッとして、反論したら、鼻で笑われた。
 表情は相変わらずの無表情だったけど、子ども扱いしたのだけは分かった。

「小娘じゃないですから!」

 もう一度文句を言って、ぴしゃりと障子を閉めた。
 ムキになるとか、そんなの、マジで子供みたいじゃん。だけど、毛利さんに子ども扱いされると、なんだか分かんないけど、ムカつく。
 障子に軽く寄りかかりながら、なんだかムカムカした。
 暫くすると、廊下から声が聞こえてきた。

「どちらへ行かれるのですか?」
 侍女の問いに答える声は無かった。
 私はこっそりと廊下を覗いた。
 廊下には、毛利さんと侍女がいた。侍女は中年女性で、何度か見かけたことがある。

「夜分遅くにならないように、お気をつけて」
 侍女は深々と頭を下げ、毛利さんは地下へ通じる部屋へ向って歩き出した。
(ふ~ん……)
 私は、にやりとほくそ笑む。
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