私の中におっさん(魔王)がいる。~毛利の章~

 * * *

 知らせが届いてから、三日が経った。
 あれから連絡はない。
 美章といえば、クロちゃんの国だ。クロちゃんは無事だろうか? 
 本当に戦争が始まってしまうんだろうか。
 そんな心配がつきないでいる。

「はあ……」
 私は春の柔らかな日差しを受けながら、縁側で一人、ため息をついた。

 毛利さんは仕事だし、コウさんも原さんも、念のため戦闘の準備をするのに、本来の仕事場である軍基地へ戻っている。

 安土の軍の基地は、この町を出て、東側の森の中にあるらしい。
 私は、戒厳令が解かれるまでは出歩くのを禁止されている。
 一応代わりの護衛の人はいるんだけど、よっぽどのことがない限りは地下街ですら禁止だった。

 重苦しくて、緊迫している空気が続いていた。
 私は、憂鬱な気分のまま何気なく縁側を振り返った。すると、縁側の先の庭の木が薄っすらと歪んでいるように見えた。

「あれ?」
 目をごしごしと擦った。
 目をパシパシと瞬かせたけど、歪みは治まるどころか更に歪んでいき、渦巻きを描くように丸まったかと思ったら、次の瞬間、逆回転して黒い空間が円形に広がった。
「え?」

 黒い空間から足がぬっと飛び出して、私は目を丸くする。
 人間がその空間から飛び出してきた。

「ふう!」
 その人物は一息つくと、顔を上げた。
「……雪村くん?」

 本人の顔を確認してるのに、半信半疑な気持ちで尋ねる。
 自分の名前を呼ばれて、彼は私に気づいた。

「あ! ゆ……谷中さん!」
 雪村くんは嬉しそうに駆け寄ってきた。
「無事だったんだな! 良かった!」
「雪村くんこそ、無事で良かった! でも、どうしたの?」

 私の質問に、雪村くんは一瞬、困ったような顔をした。
 でも、その後すぐにニカッと笑んで、

「うん。ちょっと気になってさ。会いにきちゃった。ほら今、功歩と美章で色いろあるだろ。心配でさ」
「ああ。それで。ありがとう」

 私がお礼を言うと、雪村くんはどことなくぎこちない笑顔を返した。
 ちょっと引っかかったけど、私は、
「今どういう状態なのか知ってる? クロちゃんって美章の人でしょ? クロちゃんのこととか何か知ってたりする?」
 矢継ぎ早に尋ねる私に、雪村くんは苦笑した。

「ごめん。そんなに詳しくは知らないんだ。でも、何か起こりそうだと思ってさ。それで心配になって来てみたんだよ」
「そうなんだ。ありがとう。でも、こっちは平気。それよりも、よく私がここにいるって分かったね!」
「風間がさ、調べてくれたんだよ。でも多分だけど、黒田くんも花野井さんも知ってると思うよ」
「本当に?」
「うん」

 目を丸くした私に、雪村くんは核心を持ったように深く頷いた。
 このとき、私は気づかなかった。
 雪村くんが〝風間〟と言ったときの瞳に、影が降りていたことに。
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