私の中におっさん(魔王)がいる。~黒田の章~

 * * *

 夜遅く、斥候隊の少年が足早に駆けて来た。
 天幕に押し入るように進入し、膝をついた。

「何事か!?」

 青蹴の側近が声をあげ、少年は顔を上げることなく声高に叫んだ。

「斥候隊は私を残し、全滅いたしました!」
「なに!?」
「しかし、有益な情報を掴んでまいりました!」
「……本当か?」

 少年兵は、自信に満ちた表情で顔を上げた。その瞳、その髪、その肌は、まさしく我々の国の者だ。肌は少し日に焼けているようだが、兵士なんてのは、そんなもんだ。と、青蹴は少しもこの少年を疑わなかった。

 そう、疑いようもないのだ。敵兵が功歩軍に紛れるなど、出来はしないのだから。
 少年は、驚くべき事を語った。

「敵兵の将である、東條は今病に伏しております」
「なに? そうか……それで先程の体たらくか」

「はい。どうやら病状は思わしくない様子。それで、美章軍は撤退いたします」
「撤退だと?」

「はい。森を突き抜けて、その先にある小さな要塞に逃げ込む手はずのようです」
「篭城に出ると?」
「はい」

 そうなれば、功歩軍が不利になる。
 こちらは侵略軍故、食べ物もあまり持参がない。周囲の村を襲うとしても、長引けばそれだけでは持つまい。

 それどころか篭城中の間に、美章軍の援軍がやってくる事の方が厄介だ。
 おそらく、篭城が決まった時点でもう伝令は飛ばしているだろう。
 そうなれば、速くて(空軍で)一日、二日でやってきてしまう。

「そうか……ならば、その前に叩かねばならんな」
< 100 / 146 >

この作品をシェア

pagetop