私の中におっさん(魔王)がいる。~黒田の章~
* * *
あれは、初陣が終わって一年程経った頃だった。
ぼくはその時、関の位に就いていたんだ。
初戦から一年で関の座に就くなんて異例中の異例で、結構な注目の的だった。
だけど、ぼくは誰にも心を許さず、戦場では常に防具も身につけていた。
だからまだ、ぼく以外にぼくの容姿を知るものはいなかった。(と、その時思っていただけで、翼はもうすでに知っていたらしいんだけどね)
その日は深千周(みせんしゅう)という地区で、功歩軍討伐にあたっていた。
開戦から一日足らずで功歩軍を壊滅に追い込んだところだった。
小高い丘の上に陣を張り、天幕の中で休んでいると、
「隊長! お疲れ様っす!」
「……」
さも、元気いっぱいです! という感じで天幕に入ってきたつるっぱげた男を、ぼくは見下した。
「まぁた、そんな目してぇ……お疲れさまです~! はい! 『お疲れだったね、翼』は?」
「言うわけないだろ」
鬱陶しい。
ぼくは、翼を睨む。
双陀翼は、ぼくが百兵長の位に就いた時に、ぼくの補佐として副隊長の任に就いた。
どう考えても、ありえないことだ。
百兵長よりも上の地位に居た者が、百兵長の下に就くなど降格されたにしても、され過ぎだ。
でも、ぼくには心当たりがあった。
翼は東條の甥だ。
東條が亡くなる間際にぼくのことを頼んでいたのかも知れない。
そう考えると、嬉しくもあり、迷惑でもあった。
ぼくは、もう人間と深く関わるという事をしたくはなかったんだ。
でもこの一年、翼は何かとぼくにまとわりついてきた。
翼だけじゃない。百兵長の時に、千時と丹菜が配属されてきた。
この二人は、何故かぼくを慕う目で見てくる。
ぼくに死ねと言われたも同然の丹菜と、それに猛反発した千時がぼくをそんな目で見てくるのは、正直に言って気色が悪かった。
ただ、少し考えて、そんな風になった原因には思い当たった。
多分、ぼくが丹菜を生きてたら連れ戻して来い、と千時に言った事を、良い方に摂ったんだろう。
敢えて訂正する必要はなかったけど、面倒くさいなとは思っていた。
それと、もう一人、見知った顔の男がぼくが関になってから、ぼくの隊に就いた。空だ。
彼はどうやら翼と縁が深いらしく、配属されるやいなや、なにやら楽しげに語らっていた。
空は、翼が斥候部隊の隊長をしていた時の部下だったらしい。
ぼくは、天幕の中の椅子に座り、机の上に足を投げ出した。
腕を組んで、これからの事を考える。
今は、功歩軍を追い込んだところだ。
これから奴らは撤退に入るだろうが、ぼくはそれよりも、奴らをもっと追い込みたかった。
追い込んで、一人でも多くの功歩兵を葬ってやりたかった。
ぼくは指揮をとれる任に就くようになって、なるべく多くの功歩兵が死ぬように策を練ってきた。