私の中におっさん(魔王)がいる。~黒田の章~

 翼は能力者であった。
 生まれた時から、影の中に絶壊というドラゴンが存在していた。彼は絶壊と共に育ったが、絶壊が翼の影の中に居ると知る者は少ない。
 ろくと、奥さんと、空を含む、斥候時代の部下数人だけだった。
 彼が家にいつかなかった理由はそこにもあった。
 
 幼い時分に、両親にカミングアウトした事があったが、子供の妄想で片付けられた。
 翼は頭の良い子だったので、これは話してはいけない事なのだと悟った。
 そして人間の家族よりも、いつも一緒にいる絶壊に重きを置くようになり、家を出たのだ。
 もともと貴族に向かない性質であった事も起因している。
 
 絶壊は醜い姿をしていた。人に恐怖と不快感を与える姿形だ。
 黒々とした乾燥した肌に、四つの目。鼻は低く、口は大きく裂け、二本足で立つ翼竜。一見すると、人間のように見えなくもない姿。

 絶壊は言葉を話さなかったが、人の言葉や表情は理解していた。なので、翼は余計絶壊に愛着を持っていた。だから、絶壊を見ても否定しなかった者達を大切にしようと思っている。
 ろくは「ふ~ん、使えるね」の一言で受け入れたし、奥さんなど「可愛い!」と言ってのけた天然だった。
 空や部下は最初ビビッたが「すごいっすね」と絶壊を受け入れた。
 そんなろくを、伯父上が愛したろくを、陵辱した相手を翼が許せるわけがない。
 翼はいつか必ず、地獄に引き摺り落としてやると心に決めた。
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