私の中におっさん(魔王)がいる。~黒田の章~
「それで良いの?」
呆れつつ、驚きながら言うと、クロちゃんは、にやりと意地悪く笑った。
「いーのいーの。別に式典をすっぽかすわけじゃないんだし。代理が行くだけだし」
まあ、本人が良いっていうんだから、良いのか……。
……良いのか!?
「代理が行くのだって、なにも初めてじゃないしね」
「そうなの?」
「そ」
短く答えてクロちゃんは頷いた。
そうなのか。
それでお咎めなしなんだったら、大丈夫なのかな?
「っていうか赤井さんと知り合いだったんだね」
仲が良いとは言えないみたいだけど。
「それはこっちのセリフ。あんなのとどうやって知り合ったんだよ? ま、どうせナンパだろーけどね」
「うん。なんか、後つけられたみたいで」
「ああ……やりそう」
嫌そうな顔をして、クロちゃんは何回か頷いた。
「んで、今日は何を読むの?」
「今日はね――」
あれ? なんか上手く話をそらされた気がする。
「あの、すみません」
「ん?」
突然横やりが入って、振向いた。カウンターの白髪のお姉さんが立っている。彼女はクロちゃんだけをじっと見つめていた。
(なんだろう?)
「もしかして、黒田様なのですか?」
黒田――様!?
「違います。人違いです」
(え!?)
その声はびっくりするほど、毅然とした調子で発せられた。
(いや、間違いなくあなたは黒田くんですよね?)
混乱する私に、クロちゃんは微かに苦笑した。
黙ってて――そうお願いされたみたいな笑みだ。
「そうですか……。黒田様は白星だっていう噂があったので、てっきりそうかと」
「白星(シセイ)だったら、どうなの?」
クロちゃんの責めるような強い口調に、お姉さんは、はっと我に帰った表情をした。
「いえ、すみません。そういうわけではなくて」
「そういうわけって、どんなわけ?」
追及するクロちゃんに、お姉さんは何も言えなくなって黙り込んだ。
ただ、申し訳なさが漂っている。
不意にクロちゃんは私の手を掴んだ。
ぎゅっと握られた手が、微かに震えているようだった。
「行こう」
ぼそっと告げて、私の手を引く。
私達はそのまま図書館を後にした。