私の中におっさん(魔王)がいる。~黒田の章~

「それで良いの?」
 呆れつつ、驚きながら言うと、クロちゃんは、にやりと意地悪く笑った。

「いーのいーの。別に式典をすっぽかすわけじゃないんだし。代理が行くだけだし」

 まあ、本人が良いっていうんだから、良いのか……。
 ……良いのか!?

「代理が行くのだって、なにも初めてじゃないしね」
「そうなの?」
「そ」

 短く答えてクロちゃんは頷いた。
 そうなのか。
 それでお咎めなしなんだったら、大丈夫なのかな?

「っていうか赤井さんと知り合いだったんだね」
 仲が良いとは言えないみたいだけど。
「それはこっちのセリフ。あんなのとどうやって知り合ったんだよ? ま、どうせナンパだろーけどね」

「うん。なんか、後つけられたみたいで」
「ああ……やりそう」
 嫌そうな顔をして、クロちゃんは何回か頷いた。

「んで、今日は何を読むの?」
「今日はね――」

 あれ? なんか上手く話をそらされた気がする。

「あの、すみません」
「ん?」

 突然横やりが入って、振向いた。カウンターの白髪のお姉さんが立っている。彼女はクロちゃんだけをじっと見つめていた。

(なんだろう?)

「もしかして、黒田様なのですか?」

 黒田――様!?

「違います。人違いです」

(え!?)

 その声はびっくりするほど、毅然とした調子で発せられた。

(いや、間違いなくあなたは黒田くんですよね?)

 混乱する私に、クロちゃんは微かに苦笑した。
 黙ってて――そうお願いされたみたいな笑みだ。

「そうですか……。黒田様は白星だっていう噂があったので、てっきりそうかと」
「白星(シセイ)だったら、どうなの?」

 クロちゃんの責めるような強い口調に、お姉さんは、はっと我に帰った表情をした。

「いえ、すみません。そういうわけではなくて」
「そういうわけって、どんなわけ?」

 追及するクロちゃんに、お姉さんは何も言えなくなって黙り込んだ。
 ただ、申し訳なさが漂っている。
 不意にクロちゃんは私の手を掴んだ。
 ぎゅっと握られた手が、微かに震えているようだった。

「行こう」

 ぼそっと告げて、私の手を引く。
 私達はそのまま図書館を後にした。
< 49 / 146 >

この作品をシェア

pagetop