私の中におっさん(魔王)がいる。~黒田の章~
* * *
パレードは大賑わいだった。
ダンスを踊りながら、朱喰鳥竜を先導する幾人もの女性達。朱喰鳥竜は豪華な荷台を引いている。
オーブンカー状態の荷台には、白銀に光る派手な鎧を身に纏った中年の男性が乗っていた。男性は手を振って、愛想を振りまく。
キャー! 赤井様! とか言われてたから、あれが赤井さんのお父さんだろう。紫色の瞳は赤井ジュニアと一緒だったけど、やっぱりガタイはお父さんの方がすごかった。いかにも軍人という感じがした。ジュニアはひょろっとしているけど、お父さんの方はボディビルダーみたい。ガタイが良すぎるのもあまり好きじゃないな。
なんかちょっと怖いもん。
パレードはお城の前まで続き、やがて消えていった。
式典はお城の庭でするらしい。式典がある時は、庶民でも城の庭までだったら入れるそうで、ぞろぞろと列が出来ていた。
「そろそろ帰ろうよ」
「本当に出ないで大丈夫なの?」
「大丈夫だってば」
私の心配を、クロちゃんは軽くあしらった。
まあ、私にはあれこれと口出す権利はないし、クロちゃんが大丈夫だと言うなら、それを信じるしかない。
でも、それが少しだけ寂しかったりする。
口を出す権利がないという辺りが特に。
西の空はいつの間にか夕日が傾き、淡いオレンジ色を放っていた。たしかに、そろそろ帰る時間だ。
「じゃあ、帰ろうか?」
「うん」
「あっ、そうだ。翼さんに代わりに出てって伝えなくていいの?」
「もう伝えてあるよ」
「いつ?」
「仕事場出る時」
(……呆れた。最初から出る気なかったんだ。確信犯め)
私はわざと、むっとした表情を作る。
そんな事しちゃダメなんだよ! という意味を込めて。
クロちゃんは私のメッセージに気づいたのか、わざと、ふんっと鼻をならした。
「もう!」
「あはは!」
私達は笑いあった。
幸せな空気が満ちていた。――この時までは。
突然、クロちゃんの肩が揺れた。
人並みに押されて、誰かがクロちゃんの肩にぶつかったんだ。
ふわりと、フードが揺れて、金色の髪があらわになった。
フードのない彼を見るのは初めてだった。
金糸の髪、長い黄金色のまつげ、透き通るような白い肌に、緑の瞳が映えていた。僅かなそばかすが、幼さを印象付ける。
中世的な顔立ちは、一見すると絵画の中の美麗な少女のようだった。
夕日がかった淡い光が、クロちゃんの美しさを際立たせる。
だから、思わず、
「キレイ……。クロちゃんの肌ってそんなに白かったんだね。髪もキラキラしてて――」
笑んだ自分の頬が凍るのを感じた。
クロちゃんは、眉間にシワを寄せて顔を歪めた。今にも泣き出しそうな顔。
バッと、勢いよくフードを被って、踵を返した。
そのまま走り去っていく彼の背中に、呼び止める言葉が浮かばなかった。
ただ、はっきりとわかったのは、私が彼を傷つけたんだという事実だけだった。