私の中におっさん(魔王)がいる。~黒田の章~
* * *
「ねえ、クロちゃん」
出勤に向う玄関先で、クロちゃんに話しかけた。
クロちゃんはくるっと振り返って、首を傾げた。
「なに?」
でも、どこか声音が硬い気がした。
私は、ちょっと笑ってみせる。
「ううん。行ってらっしゃい」
「うん。行ってきます」
クロちゃんは安心したように、にこっと笑って出て行った。
やっぱり、昨日の話題は出されたくないみたい。
「……はあ……」
密かなため息を吐く。
好きだと気づいたものの、どうすることもできない。
そもそも、クロちゃんがどう思ってるのかいまいち分からない。
前に私を好きだっていうような感じを出して、実は全部嘘というような人だ。
(あれ。これ、考えてみると、結構ひどくない?)
そんな人を好きになるなんて、私も大概変態だな。
だけど、一緒に暮らすようになって知ったクロちゃんはすごく良い人だった。
うん……多分、悪い人ではないのだと思う。
もしかしたら、また騙されて好きにならされてるのかも知れないけど。でも、昨日のあれは、たしかにクロちゃんの本音だった。
……そう思う。
クロちゃんのこと、知りたい。
でも、本人に訊いて嫌われるのはいやだ。
ソファに項垂れながら、ぐるぐると堂々巡りを繰り返す――と、急につるつるした頭が浮かんだ。
「そうだ、翼さん!」
翼さんに訊けば良いんだ!
いや……ダメだ。職場が一緒だもん。訪ねて行ったら、クロちゃんに絶対怪しまれる。だけど、直接翼さんのお宅に赴こうにも、自宅知らないしな……。
翼さんの家はどこなのか訊ねようもんなら、一発でバレそうだもんな。
クロちゃん勘が鋭いから。
赤井さん……は、ダメだな。
居る場所知らないし、それに多分一番訊いちゃいけない人だと思う。
クロちゃんのこと、好きじゃなさそうだったし、クロちゃんも好きじゃなさそうだったもん。
「あ~。どうしよ!」
頭を抱えて座り込む。
こういうことは、こそこそせずに本人に訊くのが一番誠実で良いことなのは分かってる。だけど、本人が触れて欲しくないものをわざわざ訊くのも、嫌われにいくようなものじゃん。
あ~どうしよう~!
「……ん?」
そういえば、もう一人いた。
何か知ってそうな人。
あの、図書館のお姉さんだ。
「……どうしよ」