私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~

 * * *

 深夜一時過ぎだった。
 風間は、甲板に立っていた。
 
 風間が気づいていないあの偽薬のおかげか、船酔いをしているようすはない。外はすっかり冬のような気温で、肌寒いどころではなかった。

 風間の吐く息は白く、歯は僅かにカタカタと鳴った。しかし、この気温が逆に快いのか、風間の口元には笑みが浮かんでいた。

 空を仰ぎ見ると、雲の隙間からチラチラと星が瞬いている。
 不意に、含み笑いをした。
 思い出し笑いだった。

 客室の方をじっと見つめて、柔和な表情を、さらに柔らかくする。優しく見つめる先には、部屋を囲んだ薄汚れた壁しか見えないが、その先で、寝息を立てているであろう少女を想う。

 そこで、ふと、彼の表情が強張った。
 彼の胸の内に、重だるく圧し掛かる。罪悪感。

 風間は眉間にシワを寄せて、険しい表情を作る。
 振り返って海を眺めた。

 広大で、月明かりのない海は、まるで魔物が住む穴のように虚ろにぽっかりと口を空けているように見えた。

 風間は思い切りため息をつく。

 これから起こる、いや、起こすことに対しての、罪悪感。
 寂しいような、切ないような、そんな感覚が胸の奥に在った。



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