私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~

 * * *

 船の中を見渡してみたけど、お爺さんの姿は見えなかった。しかなく船から下りようとすると、船の出入り口に列が出来ていた。

「これは?」
「入国証を見せてるんです」
「門を通らないんですか?」
「瞑にも関門はありますが、船で入国する場合は船の出入り口に兵が数人いて、そこで検分されるのが普通です」
「へえ。そうなんですか……」

 列に並んでいると、数十分で私達の番になった。
 西洋風の銀色の鎧を着た三人の憲兵が、槍を持って立っている。
(うわあ……! 映画みたい!)

「入国証を!」
「くっついていて下さい」

 囁くように風間さんが告げて、私は慌てて風間さんのすぐ隣に寄る。風間さんが二つの入国証を提示した。

「……夫婦か?」

 入国証を受け取った憲兵が、私達の顔をじろりと見た。
(怖っ!)
 入国証を隣の憲兵に渡し、その憲兵が巻物のような物で何やら確かめている。

「夫婦である証は?」

 え? 証? そんなの何にも持ってないよ!

「永国の者なら、持っているだろう?」

 憲兵の声音がきつくなる。
(そ、そんなこと言われても……。風間さ~ん! どうしますか!?)

 窺い見た風間さんは、焦る私と違ってとても冷静だった。いつもの、お得意の愛想笑いが顔に張り付いている。
 風間さんは、左手で襟を無造作に引っ張った。右手で何かを取り出す。チェーンだ。その先には、指輪がついている。
(あれって……)
 不意に、風間さんが私の手を取った。
  
「おそろいです。良いでしょう?」

 自慢するように、私がつけている指輪と、ペンダントにしていた風間さんの指輪を憲兵にかざした。

「よし、良いだろう」

 憲兵は安堵したように笑む。そして、私達の次にいた人に同じようにして凄んだ。

「入国証を!」

 風間さんを仰ぎ見る。

「あの、今のってなんですか?」
「ん?」

 不思議そうに首をひねってから、私の質問の意図を理解したのか、ああ、と呟いた。

「あれは、永国の夫婦なら受ける質問なんですよ。永では、夫婦になる時におそろいの何かを女性に贈る慣わしがあるので。慣わしというか、宗教の戒律ってやつですね」

 じゃあ、もしかして、指輪買ったのって……このため!?
 く、くそぉ! あんなに喜んで損したぁあぁ!
 やっぱり風間さんは女心がわかってないっ!
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