恋の駆け引き~イケメンDr.は新人秘書を手放せない~
バタンッ。
挨拶もせず助手席に乗り込んだ。
マンションまでは無言。


いつもの駐車場に車が止まった時、私はボスの方を向いた。

「なんで、こんなことするんですか?」
泣くつもりはないのに、涙声になった。
「帰りが遅いから迎えに行っただけだ」
悪びれる様子はない。

「困ります」
「俺に見られて困るようなことをしてたのか?」

そうじゃなくて・・・

なんでこうなるんだろう。

『帰りが遅くなって、心配かけてごめんなさい』って言えば済むことなのに。
いつもの私なら、いくらでも言えるはずなのに。

「帰りが遅くなれば心配するんだって、この間注意したばかりだろう。なんでそんなこともわからないんだ」
ああ、また上から目線。

でもね、自分はどうなの?
昨日は朝まで何をしていたのよ。
素直じゃない私は『ごめんなさい』が言えなくて、かわいくない私は『和田先生とはどんな関係なんですか?』と聞くこともできなくて、ただ仏頂面でうつむいた。

「当分飲み会は禁止な。外出は必ず俺に連絡すること」

はあ?
これって、束縛ですか?軟禁ですか?

何よりも、悪いのはお前だってボスの口調に腹が立った。
この時、普段抑えていた我慢の糸がプツンと切れた。

「何様ですか?」
「はあ?」
一気に、ボスの目が鋭くなった。
「私とボスは上司と部下です。たまたまお部屋をお借りしているけれど、それだけですよね」

「それだけ?」
ピキッ。
ボスの頬がひきつった。


同居を始めて4か月。
長くいすぎたのかもしれない。
近づきすぎたのかも・・・

これ以上続ければ、お互いを傷つけてしまう。


「私、部屋を探します」
半分、勢いで出た言葉。

けじめをつけようという気持ちと、離れたくない気持ちが私の中で戦っている。


「本気か?」
ボスは怖いくらい冷静だった。

「はい。今度は本気です」
「止めないぞ」
元から止めてもらうつもりはない。
「分った。すきにしろ」
投げ捨てるように言い放たれた。

この一言で、同居が終わることが決定した。

ここを出れば、元の上司と部下に戻れる。
この時の私は、単純に考えていた。
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