素直になれたら
1.新しい道
○製菓会社「すずめ製菓」・中

社員8名が事務作業をしている社内。部屋の中は全体的に、年季が入っている様子。
社長の椅子には、70代の調理白衣姿の男性、部長の椅子には50代のスーツ姿の男性、課長の椅子には40代のスーツ姿の男性が座っている。
20代から40代の女性社員数人は、事務服姿でカタカタとパソコンを打っている。
セミロングヘアの井藤心菜(いとうここな・24)は、パソコンの手を一旦止めて、「ふう」と大きくため息をつく。

心菜(はあ・・・。代わり映えしないなあ。
今日も昨日も・・・ううん、ずっとずっと、同じ仕事ばっかりしてる・・・)

心菜は、パソコンに入力した表計算画面を見つめる。
   
心菜(この会社にいる限り、私は永遠にこの表計算をしてるんだわ・・・)

ため息をつき、遠い目をする心菜。

○(回想)

事務服姿の心菜(21)が、「すずめ製菓」でパソコンを打っている。

心菜 (大学卒業後、地元・愛知県の片隅にある食品会社の事務員として就職をした私。
本当は、東京とか名古屋とか・・・とにかく、都市部にあるIT系の会社に就職したかったけれど、私の就活は予想以上に苦戦して、IT系は全滅した。
   
まあ、うちの大学の心理学科からIT企業って、あんまり例がないからね・・・。

元々、将来何になりたい、とか、考えないまま大学に進んでしまった。
高校がそれなりの進学校だったので、周りが当然のように進学を希望する中、私も、大学は行くものだって漠然と考えていた。
だけど、どういう道へ進めばいいのか、高校生の私には、それが全くわからなかった。
   
好きなものはたくさんあった。
おしゃれが好き。音楽が好き。カラオケが好き。漫画が好き・・・。
どれも、適度に楽しくてはしゃげるけれど、「絶対これ!」って、夢中にまではなれなくて。
適当に、好きなものに囲まれた日々。
だけど、「本当にこれが好き」って、「これをしたい」って、唯一のように思えるものがわからなかった。
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