一夜からはじまる恋
樹は握りしめていた写真たてを湊に渡した。
湊も見たことがあるウェディングドレス姿の樹と知らない男性。
幸せそうな二人が満面の笑みを浮かべる写真。

「彼とは大学生の時に同じサークルで、付き合っていました。」
樹は写真の中の陸を見つめたまま話始める。
「大学を卒業して同棲しながらお互いに仕事をして、一年後結婚することを約束していたんです。」
湊はまっすぐ樹を見ている。

「私の人生は彼に会うためにあったんだって思っていました。このまま結婚していつか子供を授かって家族を作っていくことが私の幸せなんだって信じていました。」
樹の瞳にあふれそうな涙がたまっている。
「でも結婚式の直前に彼は事故にあいました。居眠り運転のトラックにぶつかられて。」
湊は今まで触れられなかった樹の心の痛みに初めて触れて、自分の胸も痛んだ。
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