一夜からはじまる恋

「車、まわしてくる」
そんな湊が先に実家の玄関から出ていくと玄関には会長と湊のお義母さん、樹が残った。
「湊は昔から優しい子でね。家柄ゆえに傷つくこともたくさんあっても、その優しさを人に向けることができる。でもこうと決めたら人一倍頑固になる。どんな顔でわが子を抱くか興味がある。」
会長の言葉にお義母さんも頷く。
「前に湊さんが植物園に連れて行ってくれたんです。昔ご家族で行かれた。無邪気な顔の湊さんを初めて見ました。その時に小さいころの思い出も話してくれたんです。会長との思い出を。きっと湊さんは自分のお父さんのようにこの子を見つめてくれると思っています。」
樹の言葉に
「いつでも遊びに来なさい。湊抜きでも。なあ、母さん」
「えぇ。待ってます。大変だと思うけど、あの子をよろしくお願いしますね。」
と湊の母は優しく微笑んだ。
樹は深く深く頭を下げて湊の運転する車に乗り込んだ。