色盲症の彼女は幸せの色がわからない。


いつもの波の音。



いつもの夕焼け。


ここらから見る景色が他とは違うのはきっと




〝私だけ〟だろう_。





ぼんやりと眺めていた

決して綺麗だなんて思ったこともない、



いや、思っていたこともあったかもしれない。



けれどそんな感情はもうとっくに忘れてしまった。



あの頃から私は


見える世界が大きくかわってしまったから。




「綺麗ですよね、ここから見る夕日。」





「…!だれ?あなた。」




いきなり声をかけられとまどいを隠せなかった。



「あっ、すみません、つい…」



ははっ、と苦笑するへんな男。

ここから見る夕日が綺麗?
そんなわけない。

私は今日までずっと11年間、この場所に通い続けてきた。





今日はきっと違って見える。今日はきっと、今日は…



それの繰り返しで



今に至って何も変わらないのだから。




「綺麗?私には夕日も海も変わらなく見えるけど。」




「えっ…?そ、そうですかね…」



やっぱり、この男も周りと同じように


私を変な奴だと思っただろう。


なれたからかまわないけど、。




「そっかあ、、いいな。」



「え?」




なにがいいのかわからない。




「なにが…いいの?」



「だって、いつでも青空ってことになるから、
ずーっと見てられるじゃん!」



「訳が分からない…」



「あ…!やべ、気づいたらタメになってた、、 ごめんなさい苦笑」


「別にいいよ、それよりどうしてここに?」




「あ、俺、写真をとりに来たんだ。夕日の。」



「へえ、ねぇ、見てもいい?」




今日の私はおかしかった。

いつもならこんなに他人に関与したりしないのに…



なぜだかこの人と話をしていたい。


そう思ってしまったのだ。




「いいよ!ほら見て見て!綺麗でしょ?」




見せられたのは



やっぱり〝青い夕日〟。




彼の感動も私にはわからないものだった。



偽物の感動で誤魔化すべきか、
それとも正直に綺麗ではないと言うべきか…



「き、綺麗…」




「あぁー、思ってないでしょ!
俺って写真とるの下手くそなのかなぁ…」



「いやいや、ほんとに綺麗だよ」




やっぱり、バレてしまった

でもこの男、表情がコロコロ変わって犬みたい…




「ふふっ、」



「あ!笑ったな!じゃあ君が…って、えーっと
名前聞いてもいいかな?」



そう言われ、私は砂の上に成海と書いて見せた。





「な、る、み、なるみ、、成海かぁ!いい名前だね!
てか俺も名前に海って漢字入ってる!!」



「ほんと?なんていう名前なの?」




「海に斗ってかいて…海斗!おそろっち〜!」



ニシャッ、と笑う笑顔を見て




なぜだか胸がドキッとなった。











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