最後の1枚

後輩

「石井くん?どこまで行くの?
ギャラリーに登る階段すぎたよ。」

石井くんは私の腕を引っ張りながら、生徒ホールに連れてきて、椅子に座らせた。
渡り廊下の先に生徒ホールはあるから、きっと試合には間に合うだろうけど。

「小原、ほら」
「うわわっ!」

石井くんは、生徒ホールにある自販機で、アイスココアを買って私に投げてきた。
お代を払おうと思って財布を出そうとすると、いいよと言って隣に石井くんが座った。

「あの、なんで生徒ホールに?」
「そんな青い顔してる奴を、人の多いギャラリーに連れてったらぶっ倒れるだろ。
少し休憩してからいけ。あんま無理すんな。」

青い顔…そこまでわかり易く顔色変わってたかな…?
アイスココアを開けて、1口飲むと、ココアの甘さが口の中に広がる。

「随分と強引なやつに捕まってたな。
知り合いか?」
「…まぁ、そんなとこかな。」

本当に、意外だった。玲佳の弟が東高にいたなんて。
それにまさか、私を知っていたなんて。
知らなかったし知りたくもなかった。

どちらも話さないでいると、廊下の方から林くんの声が聞こえてきた。

「林が呼んでるから行ってくるわ。
山岸はギャラリーの方にいるから。」
「うん、石井くん。ありがとうね。」

生徒ホールの扉が閉まる音を聞いて、石井くんがいったのを確認すると、私はテーブルにつっぷした。
冷えたアイスココアの缶から水が滴る。
テーブルの冷たさが頬に伝わって、混乱した頭を冷静にして行く。

「…………意気地無し。」

誰もいない生徒ホールに、私の声が響いた。





「山岸さん。」
「あ!小原さんいたー!」

ギャラリーの方に行くと、山岸さんはすぐに見つかった。
どうやら、入口付近で待っていてくれたらしい。

「ごめんね。探してくれてたんだよね?」
「いいのいいの!…それより大丈夫?
顔色悪いよ?」
「平気。ちょっといつもより人が多くて、人酔いしちゃっただけだから」

そう言うと、山岸さんはそっか!と言って柵の方へ寄って行った。

「試合、もうすぐ始まるよ!小原さん」
「あ、うん。」

下を見下ろすと、林くんと石井くんはスタメン見たいだ。
ポジション的には、林くんがレフトで石井くんがセッター。
石井くんは背が低いからリベロかと思ったらそうでも無いみたい。

逆に、東高のコートを見ると、リベロゼッケンをつけた水谷くんがいた。
まだ1年生なのにスタメン入り。
きっと実力があるのだろう。

笛がなって、ゲームが始まる。
一言で表すと「凄かった」。
どちらのチームもレベルが高くて、1ラリーがすごく続く。
特に、林くんと石井くんのコンビネーションがすごかった。

「凄いね。東高も、うちの高校も。」
「…うん。」
「界人言ってた。「俺らの代は、東京選抜が男女ともに強かったから、気が抜けない」って。私バレーとかあんま詳しくないからよくわかんなかったけど、試合見ればわかるもんなんだね。」
「……そうだね。」

どちらも強いけど、押しているのは南ヶ丘だった。それでも水谷くんが林くんがうったボールを拾うから林くんは少し悔しそうだ。

1年生なのにスタメン入りしてるだけで凄いのに、その実力は本物で、林くんのアタックを、ものともしてなかった。

「林!もっと積極的に入ってこい!」
「分かってる!!」

放課後に行われているから、今回の練習試合は1セットだけ。
最終的に今回の練習試合は南ヶ丘の勝利だった。最後の林くんのクイックが決め手となった。



片付けが終わって東高が帰るとき、また水谷くんに話しかけられた。

「あの、先輩。
さっきはすいませんでした。詰め寄っちゃって。」
「え?あぁ、もういいよ?別に。」
「その…でもさっき言ったことは本心で…
出来ることなら、本当に欲しえて欲しくて…」
「…相手の目線。特にセッターとスパイカー。」
「え?」
「ボールが打たれてからじゃなくて、目線を見て先にそちら側に動き出せば、無駄が減るから時短になる。
あと、焦ってるのも目立つからポーカーフェイスを大事に。慌ててる選手は格好の的だよ。」
「……!ありがとうございます!!!」

何となく、本当になんとなくだけど、水谷くんにアドバイスしないことが、すごく勿体なく感じた。だから…







教えたのは、ただの気まぐれ
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