最後の駄々
子どもの頃はよかった。間違ったら誰かが叱ってくれた。「違う」と分かりやすく教えてくれた。「ごめんなさい」と言えば仲直りができた。親切に注意してくれる人を「オニババ」と言おうが「クソジジイ」と言おうが、それらは皆許されてきたんだ。
けれど今はどうだろう。子どもの頃あれだけ正しいことも善いということもイヤというほど教えられてきたのに、大人になって見た世の中は「正しい」のないことばかりだった。ここでは間違いだったことがすぐ隣では正しいとされ、この人がしてはいけなかったことがあの人ならば許される。あの時は笑い話になったことが今は天地を分ける。そんな理不尽で方程式のないことばかりだ。「ごめんなさい」と言っても許されない、言うことが許されないことだってある。
だから大人は嘘をつく。いっぱいいっぱい嘘をつく。誰かを守るため、何かを守るため。叱ってくれる人も正解を教えてくれる人もない中で嘘をついた自分に傷つくのだ。「正しい」を貫くというよりは、「最善」をその場の手探りで口から出すのだ。そしていっぱいいっぱい言い訳をする、逃げ道を作る。そうして自分を守るのだ。つきたくてついた嘘じゃなくて、邪悪な心から出た言葉じゃなくて、それは考えに考えて漏らしたひとつなのだと。
もう誰も味方のいない中で、つらいとも淋しいとも言えぬ世界の中で、大人は最後の駄々をこねる。
「例え私がルパンほどの大嘘つきであっても、例え山ほどの人の心を盗んできたとしても、あなただけは私を信じ愛していて………」と。
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