ポンコツ女子、異世界でのんびり仕立屋はじめます
 * * *

「わあ、有栖川(ありすがわ)さま! とてもお似合いです!」

 鏡の前でガウンワンピースを羽織った顧客さまに、いつもよりワントーン高い声で、とびっきりの笑顔を向ける。

 ショッピングモールの二階。イミテーションのシャンデリアと華やかなBGMに彩られたこの店が、私の戦場だ。

 ショップの価格帯は、プチプラが主流のショッピングモールの中では高めで、落ち着いたミセスやOLの顧客さまが多い。

 とは言っても、アラサー向け雑誌の常連ブランドだし、手の出ない値段ではないから一見さんも毎日訪れ、そこそこ忙しい部類のお店だった。

「本当? こういうの着たの初めてだから、自分ではよく分からないわ。桜井さんが着ているのを見て素敵だと思ったんだけど」

 有栖川さまは、いつもコンサバなスタイルのお客さま。初秋向けのガウンワンピースは推していきたい新作だけど、カジュアル寄りなのでふだんの有栖川さまの系統とは少しずれてしまう。でも、ここからが店員の腕の見せどころだ。

「ありがとうございます。今は下にスカートを着てらっしゃいますけど、私みたいにスキニーでもいいですし、いつもの有栖川さまの雰囲気でしたら、きちんと目のワイドパンツでも合うと思いますよ」

 デニムのスキニーと、チノ素材のワイドパンツをハンガーラックから取り、有栖川さまに合わせてみせる。
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