【番外編 完】愛を知らない彼
複雑な幼少期を過ごした自分には、他人を本気で愛することができないのかもしれない。

幼い頃から両親は不仲で、家では言い争うことが絶えなかった。しかしそれなりに社会的地位があった両親は、離婚を恥だと考えていた。これ以上ないほどいがみ合っていたのに、別居することをせず、家の中は常に不穏な空気が漂っていた。
そのうち、父も母も外で過ごす時間が増えていった。
それぞれ仕事に打ち込み、幼かった自分は家政婦に育てられたようなものだった。それが寂しかったわけではない。両親の不仲を見せつけられるよりはましだった。

しかし、そんな両親を見て育ったせいか、自分は本気で人を好きになることができずにいた。
これまで、相手に言われるまま数人の女性と付き合ってきた。求められるまま相手に付き合い、数ヶ月もすると「あなたの気持ちがわからない」「私のこと本当に好きなの?」と責められ、別れを告げられてきた。
そのことに、後ろめたさも寂しさも感じることはなかった。
それはやはり、自分が本気で相手を好きになれなかったからなのだろう。
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