【番外編 完】愛を知らない彼
いつもの明るい雰囲気はなく、暗く、俯く彼女がいた。

彼女に何があったのだろうか……

声をかけるきっかけがないまま、肩を落とす彼女の後ろ姿を見つめた。


彼女が落ち込む理由を知りたい。彼女には笑顔でいて欲しい。
そんな想いが溢れ、彼女に近づいていく。


キキーッ


そこに一台の車が走りこんできた。
人通りが多く、広くはない道にスピードを緩めることもなかった。

「あぶない!!」

とっさに彼女の腕を自分の方へひいた。
自分の腕の中に、驚きに目を見開く彼女がいた。

「大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です」

事態を把握するのに時間を要している彼女に、事情を説明した。

「ありがとうございます。助かりました」

なんとかそう言うものの、強烈なスリップ音と、危うく車に轢かれていたかもしれないという恐怖に震える彼女を、放ってはおけなかった。

「怖かったですよね。まだ震えています。落ち着くまで一緒にいますよ。そこのカフェで一休みしましょう」

思わず誘っていた。
まだショックで若干思考の追いついていないだろう彼女は、僕の促すままカフェに来た。
彼女のためのココアと、自分のコーヒーを注文して席に着いた。
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