サヨナラのために


グラウンドの裏手にある、公園を抜けたところに、木に囲まれたベンチがあった。


「もう、バレてないと思ったのに…」


「俺も、今日もダメかと思った。美羽は、逃げ足速いから」


ギュッと手首を掴む手に力が入る。


悲しそうな横顔に、胸が痛む。


「…ほら、もう逃げないから」


そっと誠也の手をほどく。


「大丈夫なの?この後練習とか、反省会とかは?」


「昼休憩の後だから、まだ平気」


誠也の視線が、じっと私の横に向けられる。


「…それ、差し入れ?」


しまった、と思ったときにはもう遅く。


ひょいと、誠也にとられてしまう。


「あっこれは、ちがくて…その、お母さんが作れって言うから…しかも、なんかなに作ればいいか分かんなくて…」


「おにぎり?」


「…お洒落なものじゃなくてごめん。なんか、みんな色々すごいのに、こんな地味で…」


「なんで?」


包みを開けて、誠也はおにぎりにかぶりついた。


「すっごいうまい!しかもちょっと甘めのこんぶ!さすが、美羽」


弾けんばかりの笑顔に、私は慌てて目をそらす。


…こんなので、そんなに喜んでくれるの?


「でも、誠也色々もらってるし…」


「また美羽はそうやって他の人と比べるの?」


ふわっと、大きな手が私の頭に乗る。


「ほんとに、すっごい嬉しい。1番、嬉しい」


優しい声で、そんなこと言うから。


私は頬が熱くなるのを感じて、タオルを誠也の頭にかけた。


「ぶっ…」


「あーもー!風邪引くでしょ!汗ちゃんと拭いて!」


わしゃわしゃとタオル越しに誠也の柔らかい髪をかき混ぜる。


「ほんと、手がかかる子ですねー」

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