サヨナラのために


「おかえり、遅かったね」


当たり前のようにそう言った誠也は、数日会っていなかったけれど何一つ変わっていなかった。


「勝手に部屋に入んないでよ」


玄関で靴を見た時から予感はしていたけれど、やっぱり胸の高鳴りは抑えられない。


「おばさんがいいよって」


「ほんと、お母さんは誠也に弱いんだから」


カバンを置いてブレザーを脱ぎ、ハンガーにかける。


「美羽」


瞬間、思い切り腕を引かれて誠也との距離がグッと縮まる。


誠也は座った状態で私のお腹に手を回す。


「…どうかしたの?」


私の背中に顔をつけているせいで、誠也の顔が見えない。


「ううん、久しぶりだなって」


骨張った大きな手にそっと触れると、すぐに捕らえられて指を絡められる。


「なんか、珍しいね。誠也が甘えるなんて」


誠也は、自分の心の内を簡単に出したりはしないから、代わりに行動にそれが表れることがある。


もしかして、私が意図的に避けていることに気付いていて、不安になってる?


「ねえ、誠也、誠也は…」


誠也は、このままでもいいって思う?

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