幼い私は…美人な姉の彼氏の友達の友達に恋をした

17、勘違い



 マンションのエレベーターを待ちながら、誰に向ける訳でもない行き場のない想いが溢れる。

 見たくもない場面に要は何故こうも遭遇する? まるで呪われているとしか思えない。
買った商品を涼介に渡し、負け犬の如くその場を去った。

  きたエレベーターに乗り込み。中にあった鏡を見て、己の情けない顔に溜め息が出る。


「生でラブシーンは堪えるな…」


 情けない顔の言い訳。あまりの運の悪さに笑いが込み上げてくる。

どうしたって涼介には勝てないんだと、突きつけられそれでも諦めない恋心。

 しばらくは考えたくない。そう結論を出し、仕事にせいを出そうと要は誓った。



 ***



 要のお見舞いから二日後、要からの見舞いの品に囲まれて幸せいっぱい、頭痛もなくなり完全復活した陸は、学校へ行った。

 授業のノートなどコピーまでとってくれていた典子と美恵に陸は感謝しながら謝るが、逆に二人から土下座をもらい。

それを必死に阻止するというコントのようなコミュニケーションをとり合う。

 そんな和やかなシーンに、ヤツはやってきた。


「やぁ! 陸じゃん。治って良かったね」

 態度がでかくなる優一が、また馴れ馴れしく陸の肩に手を置き覗きこんでくる。


「離して、私。田中くんとは絶交するから。もう話しかけてこないで、これ以上まとわりつくならストーカーとして警察に通報します」

「はぁ!? 僕は彼氏だろ? 彼女の心配して何が悪い。ってかさ、昨日も居留守使っただろ。出ろよ!!」

 田中優一の言動に、他の生徒たちが引きつつあった瞬間、優一は陸を殴ろうと拳を振り上げた。

 殴られる。

そう思う陸だが、優一の一発はやってこない。かわりに聞こえてきたのは、優一の唸り声だ。

 閉じていた瞳を開くと、そこには優一の腕を捻り上げていたラースメンがいた。


「女性を殴るのは、男として終わってますね。龍鳳寺様にお伝えし、臓器全てを必要なところに売って頂きましょうか?」

「それはいい考えね、一番敵に回したら恐い人を敵に回したのだから」

「お前らには関係ないだろう!」

「関係大有り、私は陸の親友だから」

「僕は陸の、」

「彼氏じゃない。友達でもないから。田中くんとはただの同級生、顔見知り程度。彼氏だなんて嘘をつかないで!!」

 言い切った陸に、泣き出した優一。

「こんなに好きなのに?愛してくれたよね?」と病気のように、陸にすがりつこうとし、またラースメンに行く手を阻まれる。


 優一の行動を見ていた優一の両親は驚愕の一言。息子の言動に母親は泣き崩れている。


「さあ、精神病棟へまいりましょうか? 優しい親御さんも来られてます」

 ラースメンはまだ陸に摑みかかろうとする優一を、父親に渡した。厳格な優一の父は、我が子を掴みながら陸らに頭を下げて連れて行った。


「シャルロット? 今のって…」

「まぁまぁ、ちょっと田中くんは、病んでる系だったって事。
部屋中に、殺す殺す殺す、やりたいやりたいやりたいって文と、胸部のデッサンばかりを書きなぐった用紙が散らばっていて、両親が精神病棟へ入れる為に、退学届を出しに来てたみたい。
 ちょーど教室の前で会ったの。陸が殴られそうになったところから両親共に見てたわよ」


 静かになった教室は、教授が入室してきて何ごともなく授業が始まる。

 田中優一の件は、この日から皆の脳から消され、誰からも忘れられた。そもそも友人の一人もおらずだった優一を気にする人間は誰もいなかった。

 陸さえも、楽しかったのは最初だけで、後は恐怖しか抱かなかった為、可哀想だが忘れることにした。


 その一件以降、学校内は大変平和。

課題に追われ、学食で昼食を食べて閉門時間ギリギリまで粘る。



「疲れたーーーー」と美恵が。

「美恵ちゃんと、同意見ーーー」典子が。

「このところ課題ばっかりだもんね」陸が。


 ちょっと遊ぶ暇も無かった。

久しぶりに三人揃って学校から帰る。二人は陸に聞きたい事をいつ話すかソワソワしていた。


「あのさ、陸ちゃんはさ、最近いい感じの人とデートとかした?」

「典ちゃん? いい感じの人って?」


 陸の問いに黙る二人。まさか要の事を言ってるのではなかろうか? いい加減、正気に戻って欲しい。


「典ちゃん、美恵ちゃん、要さんとは本当っっっに何もないからね! 知り合い程度、甘ったるい関係じゃないから!!」


 全く陸の言動を信用してない。

シャルロットから二人は両想いだと聞いたからだ。
これ以上拗れるのはよくないから外野は沈黙を貫こうと決めた。だが、気になるものは仕方ない。


「そうだ、龍鳳寺要様といえば! 今日レッドアンドブラック賞の授賞式じゃない!! 生放送だよね」


 典子は話を力づくで変えた。


「そうだよ、そう! 録画予約も完璧! 何度も確認したし、リアルタイムでも見るけど。要さん映らないかなぁ〜」

 食いついてきた陸を究極に残念と思いながらも「早くくっついたらいいのになぁ〜」と典子と美恵は互いの顔を見て溜め息をつく。



 ***


 場所は変わり、レッドアンドブラック賞の授賞式会場。

明らかに気分が悪そうな要に、裕介は心配していた。


「要様、大丈夫ですか?」

「大丈夫に見えるか?」

「見えません。失礼致します」


 軽く熱をはかる程度の気持ちで、おでこに手をもっていった裕介だったが、想像を超える高熱に驚愕する。


「要様!? 高熱ですよ!! 何故黙っているのですか!?」

「俺の変わりがいないからだ。今、立っているのか座っているのかもあやしい状態だ。サポートは頼む」

「かしこまりました。体調に気づけず申し訳ございません」

「最近悪夢ばかりで、あまり寝てないのも理由だからな。全て俺の気の緩みからきている。皆には伝えずにもらいたい」


 普段 要と面意識がなく、スーツをバシッと着こなし立っている姿だけを見れば、誰も体調不良とは思わない。

それほど普段と変わらないように見えた。

 要と裕介の会話が終了した具合に、ドレスアップしたシャルロットとタキシード姿のラースメンが要に挨拶に来た。

 軽く会話を交わし、すぐにシャルロット達から離れた要に疑問を持ってしまう。


「あの、龍鳳寺様?」

 要にはシャルロットの読んだ声が聞こえてないみたいだ。

陸の件で何かアクションを起こしてくると踏んでいたのに、空回り。
口出しはしないと心に決めたが、無視する選択がシャルロットには出来ない。

 要は控え室に向かったようなので、ラースメン共に、要の後を追った。

 すると要の身体がぐらっと傾き、ラースメンが素早く背後に入って受け止める。


「龍鳳時様!! 龍鳳時様!!」

 シャルロットの声にいち早く反応したのは、要本人だった。


「ラースメン。ありがとう、大丈夫だ」

「ですが…龍鳳寺様、この熱は…」

「ただの寝不足だ、式直前まで仮眠をとるから心配するな」


 ラースメンに言葉をこれ以外言わせないように、笑顔を浮かべ控え室に入っていく要と裕介。

仮眠をとると言われたなら、はい。としか言えない。でも原因は陸だろう。


「ラースメン、変態の高熱、寝不足の原因って陸よね?
もういいわよね、バラしても? 陸に電話していいわよね? 私…間違えてない?」

「はい、お伝えしましょう。精神さえ持ち直せば身体にガタがきていても、多少は持ち堪えてくれます」



 シャルロットはラースメンの助言をもらい頷き、速攻で陸に電話をした。


 プルルルルッッッ プルルルルッッッ 。…プルルルルッッッ プルルルルッッッ。


「のぅーーー!!あの子って携帯を携帯しないタイプだったわぁぁぁー!! 式が始まっちゃうわよ!?」



 授賞式が始まった。

 式会場には身一つでくるもので、携帯や財布などの貴重品は金庫に預けるか、信用おけるマネージャーや秘書に預けるかだ。


 例にもれず、シャルロットも秘書に貴重品を預けていた。目の前には、我が社のドレスを可愛らしい魅力たっぷりに着用している鳥野苺が映る。満足いく仕上がりだ。

 だからこそ余計に心配なのは、要の体調だ。この沢山のカメラや記者が来ている前で倒れでもしたら、台無しとは言い過ぎだが、それに近い状態になるはずなのだ。


「シャルロット様、顔が かたいですよ」

「かたくもなるわ。変態はもつかしら? 陸に長ったらしいメッセージを送ったけど、読んだかしら?」

「彼は保ちます。そして精魂使い果たした後は、とびきりのデザートを提供いたしましょう。
 携帯に送られたメッセージを読まれた陸様は、必ずこちらまで来てくださいます」

「そう願うわ。そろそろ本当に、正直に言うといいのよ。あの鈍チン二人は!」


 心配をよそに式は何事もなく終わった。

要自身が意識が朦朧としていても、日頃の鉄仮面が功をそうし、近しい人にしか要の容態は分からなかった。



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