幼い私は…美人な姉の彼氏の友達の友達に恋をした

27、入らない


注*あくまで架空の世界のお話です。現代ファンタジーです。現実世界との混合は無しで宜しくお願い致します。









「あっ、要さん!! 電話おわりましたか?」

 手に掴んでいるものが気になって要は返答が出来ない。無視する気は無いのだが、思考がマトモに動かない。

 呆然とする要だが、陸は知らない世界にウキウキ気味。これさえあれば要とエッチが出来るのだ。吟味して選んだ箱をさて買いに行くか!!と意気込んでいる。


「もうちょっと待っててください!」

 買う気満々な陸に、やっと要は現実に戻ってくる。

「まて、まて、まて、何を買うんだ!目薬は買ったんだろう?」

「何って、これを買ってきます。目薬は買いました!」

「いらん! もどせ、必要ない」


 いや、必要だろう。だってこれがなかったせいで、要とのセックスが延期になって今に至る。

 陸が学校を卒業するまでは子供は作らない。と陸の両親にも約束しているから、絶対にこれは必要だ。こんなにたくさん並んでいるんだ、今買わなくていつ買うんだ!

 変な正義感が膨れ上がる。


「むぅーー、これが嫌ならどれがいいですか?」

「………」


 それ(コンドームの箱)を握りしめている陸の姿が劣情よりも、怒りが勝る。
 何故かというと、それらはどれも要には合わないからだ。

 香りや厚さの種類が多く楽しめるのだろうが、要のサイズが日本にはない。どれも筒周りが異常に小さい。多少ゴム素材だから伸びるが、少し力を加えたら破れるのだ。

 高校までは、ギリギリ日本サイズでも使えたが、今の出来上がった身体には到底無理。試してみたが、つけた瞬間から痛いだけ、脳天にくる痛さだった。

(俺ではない誰かの為の準備か!?)

  そんな訳はないはずだが、それを想像した自分を絞め殺したくなった。


「要さん?」

 要は無言で陸の手から箱を取り上げ、棚になおす。

 自分ではない誰かがアレをつけて、陸を抱くのかと。

 まさか陸はそんなことを一言も口にしていないが、それを持っているだけで、全否定された気になる。

 要を拒否し、陸が〝それ〟を要ではない男との行為で使う姿を想像してしまい、それだけで嫉妬し気が狂いそうだった。

 まだ名残惜しいのか、チラチラ先ほどの箱が並ぶ棚を見ている陸の頭を少々乱暴に掴む。

 少々乱暴と要は思っているが、陸にはふわっと抱きしめられた感覚だった。


「ん?」

 掴んだ頭を自身に寄せて、陸の耳に唇を付け、戻せといった理由を説明してみせる。

「入らない」

「えっ?」

「日本サイズのは俺には無理だ。どれも入らない」


 言い切った要の顔が、陸の顔を覗きこむ。

 若干苛立ち含む真面目な顔で言われて、陸は脳内で要の圧巻の肉体美を思い出した。

 美術彫刻のように、計算されつくし造られた見事な裸体。そして男性らしい股間部。

 想像以上に逞しい姿を、脳内でリプレイする。


「………あっ……」

 何かを思い出したのか。陸の顔が徐々に強張っていく。それを見てひどく安心感が胸に広がっていった。

 そう、間違いなく陸の脳内には、要の裸体が鮮明に写っているのだろう。他の男を思うのであれば絶対に許せないが、要のを思い出しているなら、それは普通に嬉しい。

 陸の表情で要は幾分冷静になってきた。


「悪いな、デカくて。まっ、香り付きがいいなら海外のサイトからでも探してくる」

 羞恥心が今更やってきたのか、陸の顔が瞬間湯沸かし器のごとく、ブワァーと真っ赤に色づいていく。


「違っ、違っうくて! サイ、ズって。うぅぅぅー。要さんの、エッチ! もぅ!!」

「何がエッチだ。あんなところで真剣に物色していたら、悪い奴らに声をかけらるぞ」

「えぇー!? なんで!?」


 恥ずかしさから顔が真っ赤になり、涙目の陸は要にとって精神安定剤のようになっていた。

 気分は最高だ。

 要は余裕たっぷりに、そして間違いなく己の色気で落とすつもり。まずは逃げそうな陸を拘束するべく手を繋いだ。


「あれは基本、男が用意するものだ。相手の人を大事に思うなら男が持っていて当然。誰でもいいからやりたいという人種は、知らないがな」

「……要さん、もってなかったですよね?」

 真っ赤な可愛い顔から一転、ジトーと言いたげな表情で見上げてくる。

 今の陸の言葉から察すると、要は相手を大事に思わずに性行為ができる部類の人間だと、とったのか?


(おい、まて、何故そうなる?)

「別に、今まで要さんが、どうだったかなんて聞きませんよ。聞いたって悲しいだけだし。ふんっ!!」

「勘違いはよせ」

「勘違いじゃないです。要さんが言ったんですよ!?」


 羞恥心の涙目からの、嫉妬で悲しんでいる涙目。思った以上に陸からの嫉妬が嬉しいし幸せ過ぎた。

 はやく言い訳をすればいいのだが、もっと嫉妬されたいとワガママ心が湧き上がる。

 黙っている要に陸は離れたくなった。


「…手、繋ぎたくないです」


 振りはらおうとする行動に出た陸に、いもしない女への嫉妬に有頂天になっていた要を地に落とした。

 離れようと腰を引いた陸の手をグッと握り返した。


「勘違いだ! 俺はそういう事をする相手がいないから必要なかった。好きでもない奴とするほど暇じゃない」

 離れて行こうとした陸の身体が止まった。そして畳み掛けるように話す。

「試したのも…最近だ。陸の親御さんに学生のうちは子供を作らないでほしいと言われたからだ。
 今まで必要なかったものだから、まさか自分のサイズがないとは思わなかった」

 ばつが悪そうに繋いでない方の手で、顔半分を覆い溜め息をつく要に、陸は脳内で何度も要の言葉を反芻する。


(えっと、つまり。要さんはコンドームが必要な行為は最近してないと。今のサイズに合うのが分からないくらいエッチはしてないと。
 で、最近にそれを知ったと。私の為に試してくれたと。私の、為に…)


 陸の今の気持ちを情景に表せば、蕾だった花が一気に花開き、見渡す限り花の絨毯となっただ。

(うぅぅぅ外じゃなかったから、抱きつきたいよー)


 抱きつきたいのを堪えて、でもスキンシップはしたい。だから繋いでいた手を陸からもキュッと握り返し、繋いだ手から伸びる要の腕に身体を密着させた。



「要さんはいつも言葉足らずです」

「いちいち話す内容でもないからな」


 平静を装っているが、肘にむにょむにょと胸が当たるのが気になって気の利いたコメントを出せない。

 というか、外では勘弁だ。妻相手といえども最悪捕まるし、確実に変態の烙印を押されてしまう。


「そうですけど、」


 まだ何か言いたげな表情の陸を気にかける状態に要はあらず、変態として捕まる前に半歩ほど後ろに下がる。


「陸、頼むから、胸を押し付けないでくれ。ここで勃ったら捕まる」

「…ご、ごめんなさい!!」

「いや、悪い。堪え性がなくて…」

「シャルロット達と遊ぶ時は、これくらいのスキンシップが多くて、つい…」

「……女はいいが、男にはやるなよ」

「はい、もちろん気をつけます!!」



 元気いっぱいの返答に要は不信感満載だ。

(おい、本当か? さっきガン見で物色、胸の押し付け、物凄く不安なんだが…)

 全く陸の言葉を信用してない要だが、一定の間隔を開け手はもちろん繋いだまま、最初の目的地コーヒーショップまで歩き出す。


「あっ!!」

「なんだ?」

「忘れてました、はいっ。これ返します。カードは本人以外使っちゃダメなんですよ。なので使ってません」

「近くにいたし、このショッピングモール内の日用雑貨はサインレスだから大丈夫だ」

「いやいや、要さん、あのですね! どこに数百円の買い物を、ブラックカード使う人がいるんですか!?」

「…買い物は、このカードしか使ってないからな。使えない訳じゃないだろ? 次の買い物は側にいるから使って大丈夫だ」


 カルチャーショックだ。お金の使い方が異世界だ。どこをどう違うと言えばいいのか、頭を悩ませる。


「気になるなら、陸の名義でブラックカードを作ったらいい。確か家族は同じカードを作れたはずだ」

 要の口から出る『家族』に胸キュンではあったが、いらない。丁重にお断りだ。

 陸のようなどう見ても庶民、まさしく庶民が、ブラックカードで買い物だなんて、それこそ悪い大人につけ込まれそうだ。


「いりませんよ。使わないですから」

「そうか? 欲しいものがあれば買うから言ってくれ」

 要の金銭感覚が不安になる。

「要さん……」

「ん?」

「物品をねだる人は、ダメな人ですからね!! 誕生日とか、そういう特別な日以外で物品をねだる人なんて、絶対にロクな人間じゃないですよ!! 気をつけてください!!」


 陸の心配は要にとっては今更だ。誰にでもホイホイ物を与えてはいない。むしろもっと世の中は酷かった。


「陸にだけだから安心しろ。むしろ出会ってから、誕生日、クリスマス、本当はいつもプレゼントを渡したかった。興味ないフリをしていたから、昔は菓子くらいが精一杯だった」

(たしかに、要さん、いっつも美味しいお菓子くれてたな)


 ずっと遠くから愛されていたなんて、知らなかったとは言え、気づけ昔の自分!! と昔の自分に対して怒った。

 要はこちらを見つめる陸に、優しく笑みを返してくれる。


「涼介や海の手前、陸にだけプレゼントは出来なかったからな、その反動だ。
 まっ、俺もかなり我慢したんだ。陸がタワーマンションが欲しいと言ったら一棟買い出来るくらいは、貯金があるから気にするな」

「私は悪女にならないように頑張ります!!」


 陸も要に負けずに笑い返した。

「くくっ、金は稼げば手に入るが、どれだけ金をつんでも陸の心は手に入らないからな。悪女になっていいぞ。陸となら一緒に俺は落ちてやるよ」

「もうー恐いこと言わないでください!!」

「本気だ」

「もうー!!」


 側はたから見ればもう、甘ったるくて胸焼けを起こしそうだった。

 一定の間隔をあけて、必要以上ベタベタせず。そんな二人が幸せオーラを撒き散らしながら、微笑み合って歩いているのだ。


 すれ違う人を、ふわっと幸せにさせてくれる。

(コーヒーショップが遠くて良かったなぁ、もうちょっと要さんと手が繋げる!!)

 たわいない会話をしながら二人はコーヒーショップを目指した。


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