極上蜜夜~一夜の過ちから始める契約結婚~
背中半分まであるゆるふわの茶色い髪は、後ろで一つに緩く結んである。
大きな目に丸顔で、普段から『小動物系』と喩えられる幼い顔立ちの私は、きっと今、二十八歳大人の女には見えないだろう。


初めて訪れた憧れのローマの街。
繰り出す準備だけは整っているけど、私の心は沈んだまま。
表情も浮かない。


「……はあ」


声に出して溜め息を重ねてから、ほとんど機械的に石畳の通りに足を踏み出し、とぼとぼと歩き出した。


本当なら、三年付き合った彼と二人、婚前旅行で訪れるはずだった。
それが、今、私は一人ぼっち。
回しても読めない、苦手な地図を片手に、路上駐車が多く狭い路地をウロウロと行ったり来たり――。
ガイドブックでは『徒歩十分』と記載されている場所に行くにも、その二倍も三倍もの時間がかかる。
目的地に辿り着いた頃には心も身体も疲弊していて、この先の心細さの方が強まる。
一人旅に踏み切ったのは私なのに、せっかくのローマを堪能できない。


ローマの街中にある、世界最小のバチカン市国。
サンピエトロ広場は、かつて教皇を外部の攻撃から守るために築かれたという城壁で、丸く囲まれている。
世界各地からの観光客で賑わう広場の前に立っても、私の心は躍らない。


それでもローマは、どこもかしこも明るい太陽に照らされていて、活気がある。
誰もが陽気で朗らかなこの街を、沈んで淀んだ心のまま楽しめない自分が、とても場違いで異質な存在にも思えてくる。
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