極上蜜夜~一夜の過ちから始める契約結婚~
様々な国籍の観光客が行き交う、賑やかなサンピエトロ広場の前に立って、ぼんやりと眺めていたバチカン宮殿が、視界の中でいきなりぐにゃりと歪んだ。
「っ」
じわっと目に浮かんだ涙が、瞳に映る美しい世界を滲ませ、頼りなく儚げに揺らす。
自分が泣いていることに気付き、私は慌てて手の甲で目元をゴシゴシと擦った。
喉の奥がひくっと震えるのを、ごっくんと唾を飲んで誤魔化し、口をすぼめて「ふうっ」と息を吐く。
壮大な世界遺産の目の前にいるっていうのに。
人生初の一人旅に臨んだのは、少しでも前向きになるためなのに。
いつまでもこんなんじゃ、なんのためにここまで来たのかわからない。
沈み切った気持ちをなんとか奮い立たせ、とにかく無理矢理にでも観光を楽しもうと自分を叱咤した時、いつの間にか、すぐそばに立っていた少女が、突然ドンとぶつかってきた。
「きゃっ……!?」
春馬さんのことを思い浮かべ、気がそぞろになっていた。
少女の行動は、完全に不意打ちだった。
よろけた途端、バタバタと不揃いな足音が近付いてくるのがわかった。
ハッとして顔を上げると、数人の子供たちが私めがけて、広場の方から駆け寄ってくる。
一瞬怯んだ隙に、彼らは、私が肩から提げていたバッグを、あっさり掠め取っていった。
「っ」
じわっと目に浮かんだ涙が、瞳に映る美しい世界を滲ませ、頼りなく儚げに揺らす。
自分が泣いていることに気付き、私は慌てて手の甲で目元をゴシゴシと擦った。
喉の奥がひくっと震えるのを、ごっくんと唾を飲んで誤魔化し、口をすぼめて「ふうっ」と息を吐く。
壮大な世界遺産の目の前にいるっていうのに。
人生初の一人旅に臨んだのは、少しでも前向きになるためなのに。
いつまでもこんなんじゃ、なんのためにここまで来たのかわからない。
沈み切った気持ちをなんとか奮い立たせ、とにかく無理矢理にでも観光を楽しもうと自分を叱咤した時、いつの間にか、すぐそばに立っていた少女が、突然ドンとぶつかってきた。
「きゃっ……!?」
春馬さんのことを思い浮かべ、気がそぞろになっていた。
少女の行動は、完全に不意打ちだった。
よろけた途端、バタバタと不揃いな足音が近付いてくるのがわかった。
ハッとして顔を上げると、数人の子供たちが私めがけて、広場の方から駆け寄ってくる。
一瞬怯んだ隙に、彼らは、私が肩から提げていたバッグを、あっさり掠め取っていった。