密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
「今更、主様のため以外に生きる道を探せというのですか?」

 出来るだけ平然と、感情を抑えて問いかける。そうでなければ情けなく声が震えてしまいそうだ。

「酷いことを言っている自覚はあるよ。それでも俺は、護衛としてサリアを連れていくことは出来ない。もちろん密偵としてもだ」

「そんな! だとしたら私はどうすれば!?」

 その一言はサリアの感情を爆発させた。

 密偵として必要ないと言われてしまったらどうすればいい?

 ちっとも、まるで、わからない。

 他の道など考えたこともなかった。

 この命が尽きる日まで、この関係が壊れることはないと信じていたのだ。

「それでも……私の主は主様だけです!」

 まるで言い逃げをするように窓から飛び出す。そう、窓から……。

 サリアは従者のジオンとは違い密偵だ。たとえ感情任せになっても堂々と廊下に出てはならない。もしルイスの敵に捕らえられた時、彼のそばにいた人間だと疑われないためである。
 サリアの心は根っからの密偵だった。

 部屋には困ったような表情を浮かべるルイスと、呆れたようにため息を吐くジオンが取り残された。
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