密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
「いいか。俺には出来ないが、お前には出来ることがあるだろう。ルイス様はお前のことを……ああいや、それについてはこれから話があるかもしれないからな。俺から言うのは野暮か……」

 ジオンはぶつぶつと何かを言っていたが、あまりよくは聞こえなかった。もっとはっきり話してほしいものだ。
 やがて自身で結論付けたのか、咳払いをする。おそらくここからが本題だろう。

「つまりなんだ。お前にしか出来ないルイス様の支え方ってもんがあるだろ?」

「そんなものがあるわけないでしょう」

 絶賛いじけモードの私は冷たく突っぱねる。とても優しくする余裕はない。

「あのなあ、お前優秀な密偵なんだろ。ちょっと考えればわかるはずだぜ」

 今、ジオンはなんて?
 いつの間にか私は膝から顔を上げていた。

「そう、でしたね……」

 私は誰?

 自身に問いかける。

 私は――

 第二王子ルイス様の優秀な密偵!

 ちょうど目の前にいたジオンと視線が重なったのでこくんと頷いた。その反応にジオンも手を取り合って喜んでくれる。二人の答えは一つということだ。

「そうか! わかってくれたか!」

「はい。わかりました!」

 いや、気づいたといいうべきか。あるいは思い出したとも言える。

「私、ちょっと探り入れてきます!」

「優秀な密偵ってそういう意味で言ってねえよ!?」

 いじけて膝を抱えているのはここまで。大人しく話を聞くのもここまでだ。
 私は主様の姿を探しに向かった。

 背後ではジオンが「ちっとも伝わってねえ!」と叫んでいたが、時間は限られているので相手をしている暇はない。
 ジオン、つまり貴方が言いたかったのはこういうことですね。
 主様にとって密偵の私は不要。なら、必要とされるためには、密偵以外の場所で役に立つ方法を見つければいい。
 有志な密偵ならば自分で探れり出せと、そう言いたいのでしょう?

 猛進する私の行く手を阻むものはない。
 決意を胸に私が向かうのは主様が食事をしている部屋、その窓辺だった。
 第二王子派のメイドに頼んで窓を明けてもらい、そっと食事風景を盗み見る。

 うっ、わぁ……

 主を前に申し訳ないとは思いますが、残念ながらこれが正直な感想です。なにしろ食事の相手は主様を追放に追いやった張本人、セオドア殿下である。
 主様は平然と顔を付き合わせているように見えますが、外にいても居心地の悪さが伝わってくるほどだ。
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