密偵をクビになったので元主のため料理人を目指します!
「陛下の無茶ぶりには困ったものよね」

「何か知ってるんですか?」

「別に。あの人の考えることなんてあたしにはわかんないわよ。でもこれって、あんたへの挑戦なんじゃない?」

「は?」

「あたしと陛下って気が合うみたいでね。あたしは、あたしに痛い目みせてくれたあんたが困ればいいと思ってるわけだけど。急に厨房に無理難題を吹っ掛けるなんて、陛下もあんたを困らせたいのかしら?」

「まさか……」

 でも本当だとしたら?
 な、なんて性格の悪い!
 もちろん目の前にいる人のことも言っていますけど。

「ところでそれ、私に話していいんですか?」

「これでも守秘義務はちゃんと守るわ。これは私の勝手な推論。この件に関して口止めはされていないし、話しても問題ないはずよ」

 それにしても気安いと思う。仮にも私は監視対象らしいのだが。

「監視すると言ったわりには気安いんですね」

 つい口に出してしまう。これくらいなら私も話して問題はないだろう。

「これがあたしの監視スタイルよ。喧嘩しに来てるわけじゃないしね。仲良くなって取り込もうってわけ。陛下からもこっち側に懐柔出来そうならするように言われてるの」

 思わず眉間に皺が寄る。
 私を、懐柔?
 冗談じゃない! 誰があんな人のために動くものか。私は生涯、主様のためだけに働くんですよ!

「あははっ! その顔、絶対無理って顔ね!」

 女性は腹を抱えて笑う。そんなに面白いことを言ったつもりはありませんと、さらに険しさが増していた。

「まっ、頑張りなさーい」

 ひとしきり笑い転げた女性は、ひらひらと手を振りながら来た道を戻って行く。言いたいことだけ言って……すっかりいつも勝手な人という印象だ。
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