溺愛旦那様と甘くて危険な新婚生活を
男に言われるまで気づかなかったが、花霞が今着ているものは、花霞のものではなかった。
男物のグレーのセーターだった。オーバーサイズのものなのか、大きな作りになっており、花霞が着るとワンピースのようになっていた。
花霞が自分で着替えた記憶など、もちろんあるはずがない。と、なると着替えさせたのは必然的に1人しかいないのだ。
目の前の彼だ。
それを知ると、花霞は恥ずかしさと動揺で一気に顔が赤くなった。先程まで、普通に会話出来ていたのが嘘のように、目の前の彼を見ることが出来なかった。
それもそのはず。
会ったばかりの男に、寝ている間に服を脱がされ、着替えをさせたのだ。
恥ずかしくて、涙が出そうなほどだった。
そんな様子を見て、さすがの彼も何故真っ赤になったのかわかったようだった。
「すみません………申し訳ないとは思ったんですけど。雨で濡れたままベットに寝せるわけにもいきませんし、風邪をひいてしまうと思ったので。………あ、なるべく見ないようにしたので。それに、さすがに、その………下着は脱がせられなかったので、そのままにしてます。」
申し訳なさそうな声で、弁解してくれる彼。
彼は悪気があって着替えさせてくれた訳ではない。それを花霞も理解していたけれど、恥ずかしいものは、恥ずかしかった。
けれど、ここで怒るのは違うとはわかっていた。
羞恥心で目に涙が溜まってきたのを、堪えながら、花霞はゆっくりと男の方を見た。
「いえ………ありがとうございます。恥ずかしい、ですけど………仕方がない事なので……。」
と、お礼を伝えた。
すると、何故か男も「ありがとうございます。」と言ったのだった。