溺愛旦那様と甘くて危険な新婚生活を



 男に言われるまで気づかなかったが、花霞が今着ているものは、花霞のものではなかった。
 男物のグレーのセーターだった。オーバーサイズのものなのか、大きな作りになっており、花霞が着るとワンピースのようになっていた。
 
 花霞が自分で着替えた記憶など、もちろんあるはずがない。と、なると着替えさせたのは必然的に1人しかいないのだ。
 目の前の彼だ。

 それを知ると、花霞は恥ずかしさと動揺で一気に顔が赤くなった。先程まで、普通に会話出来ていたのが嘘のように、目の前の彼を見ることが出来なかった。
 それもそのはず。
 会ったばかりの男に、寝ている間に服を脱がされ、着替えをさせたのだ。
 恥ずかしくて、涙が出そうなほどだった。


 そんな様子を見て、さすがの彼も何故真っ赤になったのかわかったようだった。


 「すみません………申し訳ないとは思ったんですけど。雨で濡れたままベットに寝せるわけにもいきませんし、風邪をひいてしまうと思ったので。………あ、なるべく見ないようにしたので。それに、さすがに、その………下着は脱がせられなかったので、そのままにしてます。」


 申し訳なさそうな声で、弁解してくれる彼。
 彼は悪気があって着替えさせてくれた訳ではない。それを花霞も理解していたけれど、恥ずかしいものは、恥ずかしかった。


 けれど、ここで怒るのは違うとはわかっていた。

 羞恥心で目に涙が溜まってきたのを、堪えながら、花霞はゆっくりと男の方を見た。



 「いえ………ありがとうございます。恥ずかしい、ですけど………仕方がない事なので……。」


 と、お礼を伝えた。
 すると、何故か男も「ありがとうございます。」と言ったのだった。


< 14 / 223 >

この作品をシェア

pagetop