溺愛旦那様と甘くて危険な新婚生活を



 椋の視線は、その書斎に向いていた。
 けれど、彼はそこを睨みながら、そう言ったのだ。花霞を追い出した玲よりも、恐怖を感じる強く鋭い視線で。
 花霞は思わず、体を震わせて後ろに1歩下がってしまう。あまりにも彼の様子が変わりすぎているからだ。


 「もし入ったら………僕からのお仕置きが待ってるからね。」
 「お、お仕置き……?」


 花霞が怖がっているのか、先ほどの表情が幻だったかのように、椋はにっこりと笑ってそう言った。
 けれど、花霞にはわかった。
 彼の口許は微笑んでいるけれど、目は全く笑ってない事を。


 花霞は、あの部屋には決して近づかないと心に決めたのだった。




 

 
 椋がお風呂に入っている間、彼には「先に寝ていてもいいよ。」と言われたものの寝れる気が全くしなかったため、寝室の大きな窓から夜景を眺めていた。
 寝室以外はカーテンも要らないような高層マンションの一室から見る夜景は、まるで高級ホテルや展望台から見るような、豪華なものだった。


 「綺麗だなぁ…………。」


 独りつぶやきながら、花霞は呆然とキラキラと光る星空のような町を見つめた。
 このたった1つの部屋の光の先に、自分は居たのだ。それを、今はこんな高い所から見つめているのだから、信じられない思いだった。

 生きていると、思いもよらない事があるのだなと、しみじみと考えてしまう。
 けれど、ここに来る事を選択したのは、花霞自身なのだ。自分でここで暮らす事を選んだのだ。期間限定であっても、自分で決めた事に、いつまでも不安にならないように、そう決めた。

 そして、いつまでも彼の事を思うのも止めよう。
 止めたい………そんな事を思っても、3年一緒に居た時間や思い出は、すぐに消えるものではなかった。



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