日替わり彼氏


どう、して?


両膝をついた弥恵は、口の端から血を滴らせる。


「ふふっ」と微笑みながら、後ろにひっくり返り___。


「弥恵⁉︎」


駆け出した私は、辛うじて弥恵の手を掴んだ。


崖から身を乗り出し、落ちていく弥恵を引き上げる。


「もう、離してよ」


「弥恵?」


「私はあんたに刺されて、突き落とされた。はじめっからそうするつもりだったんだから」


生気のない弥恵の顔に一瞬、怒りが滾(たぎ)る。


「全部、あんたのせいなんだから」


あまりの憎しみに怯みかけたけど、ここで手を離せば、なにもかも弥恵の言う通りになってしまう。


先生も大輔も弥恵も、私を中心にしてみんな死んでしまう。


それだけは、それだけは絶対に__。


「もう、先生のところに行きたいの」


弥恵の目から涙が一筋、こぼれ落ちた。


それは、私が知っている弥恵だったんだ。


涙が頬を伝い、顎から離れるのと同時に、弥恵が足で崖を蹴った。


「あっ」


手が離れ、海に吸い込まれていく。


先生が待っている海の底に、弥恵は飲み込まれていった。


もう、言い逃れはできない。


そうだ、逃げるのをやめよう。


おかした罪を償うんだ。


ここで命を失ったひとたちのために__。


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