日替わり彼氏


はぁー⁉︎


な、なに言ってんの?


増田順一の手には、ぱかっと開かれた指輪の箱。


結婚指輪が光り輝いていた。


店内の期待に満ちた視線を一身に浴び、あまりのことに震えが込み上げてくる。


感動でも恐怖でもなく、怒りだ。


こんな演出をして私を追い込む、この男の下らないサプライズに腹が立って仕方がない。


席を立ち上がった私はそれでも「ごめんなさい」とちゃんと断りを入れ、駆け出した__薄暗くて何も見えず。


あっ!と思った時にはもう、側に立っていたウエイターにぶつかり、転んだ拍子にテーブルクラスを引っ張って、店内に激しい音が響き渡った。


「智花ちゃん、待って!」


デブの増田が追いかけてくる。


デブのくせに意外と足が早くて、私の行く手を遮ると__。


「さっきは恥ずかしかったよね、いっぱい人がいたから。だから改めて、僕と結婚して下さい」


両膝をつき、両手に乗せた指輪の箱を差し出す。


デブのくせに、王子様気取りか?


デブのくせに。


デブのくせに。


デブのくせに!


「誰があんたなんかと!」


私は、指輪の箱をはたき落した。


それだけでは怒りがおさまらず、足の裏で思い切り増田の肩を突き飛ばす。


カエルみたいにひっくり返る、水曜日の彼氏候補。


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