堕天使
この状況をどうしてくんでくれないのか。

どうして私の気持ちをわかってくれないのか。

愛菜は口を押さえて泣いた。

樹は愛菜の気持ちを読み取るかのように言った。

「僕が今、ここで嘘をつくこともできます。でも、貴女に嘘は残酷なものでしかないから」

愛菜は思わず「馬鹿野郎」と口走った。

呼吸が出来ない。

目が痛い、顔が痛い、身体中が痛い、心が痛い。

嘘じゃないんだ、好きな人が結婚するのは夢じゃないんだ。

目の前に突き付けられたものに声が出なくなる。

「わた…しは・・・これから・・・どうすればいいの?」

泣いているせいか上手く喋れなくなる。

「今は、眠ってください」

冷静に樹は答える。

愛菜は無意識に左手を樹の前に差し出した。

樹は黙って愛菜の手を握った。

「大丈夫、怪我人を襲ったりなんてしませんよ。僕は常識ありますから」

…そんなこと一ミリも考えてないわ。
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