新婚蜜愛~一途な外科医とお見合い結婚いたします~

 迷いながらぼんやりと歩いていた帰り道、あまり会いたくなかった人物に声をかけられた。

 田辺葵衣(たなべあおい)研修の時に、関係のあった女性。

 彼女とは医師を志す考え方や、目指すものが似ていたし、切磋琢磨する戦友のような間柄で気も合った。
 さっぱりとした彼女とは後腐れなく終わり、彼女は立派な脳神経外科医になっている。

「久しぶりね。食事でもどうかしら」

「いや。帰らないと心配するから」

「そう、変わったわね。結婚したらしいじゃない」

「ああ」

「だから産業医? 一人でも多くの人を救いたいって言っていたあなたは、もういないわけ?」

 手厳しく言い放つ彼女は、迷いなく私を見つめている。

「君には関係のない話だ。放っておいてくれないか」

「お母様を救いたかったのでしょう? 産業医では救えないわ」

 まだ言い足りなさそうな彼女を残し、私は足早にその場を立ち去る。

 産業医は医療行為を行えない。
 わかっている。
 そんなことは、言われなくてもわかっている。

 どこにも向けようのない気持ちを抱え、足取り重く自宅へと帰った。

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