君と巡る歴史
千夜が書斎に入ると、お父さんが「千夜」と優しく笑いかける。千夜は伊集院家の一人娘だ。そのため大切に育てられた。

「話は聞いたよ。彼と別れたんだって？」

ズキンと千夜の胸が痛む。千夜はお父さんから目をそらし、「……はい」と呟く。お父さんからそんなことを言われるなど、予想すらしていなかった。

「千夜が傷ついていることは、よくわかっている。だから気晴らしに旅行にでも行きなさい」

お父さんは千夜に水色のスーツケースとパスポートを渡す。千夜は戸惑い、お父さんとスーツケースを交互に見つめた。

「行き先はチュニジア。チュニジアでトゥルキ・ヤニスという男性が面倒を見てくれる。さあ、行っておいで」

千夜はそのまま車に乗せられ、空港へと連れて行かれる。

飛行機に乗りながら、千夜は不安しか感じていなかった。チュニジアという国には行ったことなどない。しかも、自分の面倒を見てくれるのは自分の知らない男性なのだ。千夜は緊張し、コーヒーを口にする。
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